「大都市圏強震動総合観測ネットワークシステム」は平成11年度第二次補正予算の大型特別機械整備費により、大都市圏の拠点国立大学に整備されました。阪神・淡路大震災以降に各種機関により設置された強震観測網・震度観測網などと波形データを交換するシステムを整備するとともに、被害の危険が指摘される地域などに機動的に強震観測を集中させたり、高密度の観測の中で基準となる強震観測を実現するための設備を併せて設置し、強震動の総合観測ネットワークを構築することをめざしています。
平成10年8月の測地学審議会建議や11年4月の地震調査研究推進本部指針において、震源域における強震動の予測に関する研究や、強震動予測手法の高度化に関する研究の重要性が指摘されています。
これらの指摘は、強震動予測研究がより直接的に地震防災研究に貢献し得る分野として、今後重要視されるべきとの認識に基づくものであり、その基礎となる強震動波形データの収集・蓄積が急務になっています。
阪神・淡路大震災以降、防災科技研のK-NET(本連載第1回)や気象庁の計測震度計網(同2回)をはじめ各種機関による強震観測網が急速に展開され、大都市圏のある部分では既存観測装置の分布が、数の上ではすでに高密度(数km間隔程度)なものになっていますが、これらを有機的に結合してデータを活用するシステムを構築するまでには至っていません。
また、こうしたシステムに加えて、観測密度の不足する地域や被害が予想される地域に機動的に強震観測を集中させたり、高密度観測では避け難いデータのばらつきを見積もるために基準となる観測点を用意することも、強震動予測研究には欠かすことができません。
以上の背景を踏まえ、強震動波形データネットワーク装置と機動強震動観測装置、強震動基準観測装置の3装置で構成された設備が、首都圏・関西圏・中京圏の三大都市圏に札幌圏、仙台圏、福岡圏を加えた六大都市圏へ、それぞれの拠点国立大学(東大地震研、京大防災研、名大理学部、北大理学部、東北大理学部、九大理学部)を中心に展開されました(図)。
大都市圏強震動総合観測ネットワークシステムの全体構成
特に強震動波形データネットワークでは、自治体と自治省消防庁により整備された震度情報ネットワークシステム(本連載第5回)に加えて、同じく自治体と科学技術庁により整備された強震計ネットワークなどとのデータ交換が、表1のように進められることになっています。
--------------------------------------------------------- 都市圏 拠点大学 データ交換先 --------------------------------------------------------- 首都圏 東大地震研 東京都・東京消防庁・神奈川県 関西圏 京大防災研 大阪府・京都市・滋賀県 中京圏 名大理学部 愛知県・三重県・岐阜県・名古屋市 札幌圏 北大理学部 札幌市・北海道 仙台圏 東北大理学部 仙台高密度強震観測事業・宮城県 福岡圏 九大理学部 福岡県・福岡市 --------------------------------------------------------- 表1. 強震動波形データネットワークのデータ交換先
また、たとえば東大地震研では、機動強震動観測装置として15セットのポータブル強震観測装置(アカシ・白山工業製)が導入され、今後、共同利用にも供される予定です。
一方、強震動基準観測装置は、関東平野の周辺部にあって地盤条件が良好な八王子、筑波、鋸山に設置され、衛星テレメータなどを利用して波形データが収集されます。
本設備に関する情報・データの公開については、今後、関係の自治体や消防庁、科学技術庁などの意向を踏まえ、共通形式のインターネットWeb等を利用して進められることになっています。
本設備の実現にあたっては文部省学術課、地震予知研究協議会と同企画部、および強震動研究に関係の方々の協力をいただきました。記して感謝します。