会長挨拶Message from the President

日本列島は、世界の中でも地震活動が非常に活発であり、一日に数100個もの地震が発生するとともに、数年に一度の頻度で大地震による甚大な災害が生じています。このような地震がなぜ起きるのか、地震によってどのように揺れるのか、どんな被害が生じるのか、人類社会の安心と安全を確保するうえで、これらを理解することは大変重要です。

日本地震学会は、1880年に発生した横浜地震を契機に、世界で初めて地震学を専門的に議論する学会として、当時在住していたお雇い外国人らを中心に創立されました。その後、1892年に解散しますが、その流れを受け継いで1929年に創立された地震学会が、戦争による休止期を経て現在に至っております。最初の創立から数えると、今年はちょうど140周年となります。このような長い歴史の中で、世界の地震学を牽引する優れた研究成果が日本から創出され続け、地震に関する理解が深まってきました。この地震学の発展を支えてきた一つの重要な要因は観測網の発達です。以下に、観測網の発達による地震学の成果の代表例をいくつか紹介します。

明治・大正期には、中央気象台(現在の気象庁)によって全国の気象官署に地震計が展開され、そのデータを集めて震源決定がなされていました。その当時、地震はおよそ深さ60kmよりも浅い場所で発生するものと思われていましたが、和達清夫は気象台業務を行う中で、異常震域を伴って数百kmもの深さで発生する深発地震を発見し、それらが日本海溝付近から内陸に向かって傾斜する面に沿って分布することを明らかにしたのです。この深発地震帯(面)は、その約半世紀後に提唱されたプレートテクトニクス理論を裏付ける重要な証拠となったものですが、この発見を導いた重要な要因は、観測点数は少ないものの、全国的に展開された観測網であると言えます。

1960年代には、地震予知計画のもと、各大学などで実施されてきた微小地震観測網のテレメータ化が進められ、各センターに収集されるデータの時刻精度が非常に良くなったことで、震源決定精度も向上し、数多くの研究成果が創出されました。その顕著なものとしては、東北大学の長谷川昭・海野徳仁によって二重深発地震面が発見されました。

1990年代後半以降、防災科学技術研究所によって高感度地震観測網Hi-netなどの観測網が整備され、高密度かつ連続地震観測の成果として、深部低周波微動をはじめとする一連のスロー地震が発見されたことはまだ記憶に新しいことですが、ごく最近では、陸域だけでなく海域にもオンラインでデータ収集が可能な海底ケーブル式地震・津波観測網が展開され始めており、さらに新たな現象の発見が期待されます。それと同時に、これらの観測網から収集されるリアルタイム観測データは、緊急地震速報などのように、現象の即時把握とその後の地震動や津波の伝播予測に活用可能であり、災害軽減を通じた社会貢献の面でも大いに期待されます。

日本地震学会では、地震に関する学理を追求し学術として発展させるとともに、これまでに得られてきた知見を正しく社会に伝え、普及を図るという役割を担っています。そのような役割を果たすためには、地震に関する研究に携わっている方々はもちろん、地震学の知見を様々な分野に適用していきたいと考えられている方々、さらに地震に関する知見を理解し、社会に活かすために周りに伝えていきたいと考えられている方々にも、日本地震学会に参加していただき、我が国における安心・安全な社会づくりに貢献できるよう、ともに連携して学会活動を進めていきたいと思います。日本地震学会はそのような皆さんの参加をお待ちしています。

公益社団法人日本地震学会 会長 小原 一成

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