先の阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、消防庁では「震度情報ネットワークシステム」の整備を平成7年度~8年度にかけて行いました。以下に、その概要を紹介いたします。
大規模地震では被害状況を早期に把握し、応急対応を実施しなくてはなりません。これまでは、このような作業は気象庁が発表する震度速報に基づいて行ってきましたが、先の阪神・淡路大震災のように、震度7の地域が帯状になっていたこと等が即座に判明しなかったことから、当時は神戸海洋気象台の震度6を頼りに、神戸市を当面の目標として応援部隊の派遣を行いました。応援活動を行うに当たって、地域の震度をより細かく把握できればそれだけ対応方法が異なったものとなります。例えば、西からの部隊は神戸市へ行ってもらうこととし、東からの部隊は大阪府と兵庫県境から救助・救急活動を行っていただくことが可能であったかもしれません。そこで、市町村単位で震度を計測し、かつ、ネットワークを介して震度情報を都道府県、消防庁まで伝達できるシステムを構築したものです。
(1)都道府県事業
県下市町村に計測震度計を配置し、そこからの震度情報により、県内応援体制の確立を行うため、各市町村に最低1台の計測震度計を配置するとともに都道府県庁に受信装置等を整備し、市町村別の震度分布状況の把握が行えようになりました。
(2)消防庁事業
各都道府県から送られてくる震度情報により、迅速な県外からの広域応援体制の確立を行うため、消防庁に受信装置を整備し、都道府県を通じて各市町村単位の震度情報の把握が行えるようになりました。また、各都道府県から送られてきた震度情報については、消防庁から各都道府県へフィードバックしています。
(3)関係機関の整備している設備の利用
気象庁、科学技術庁、地方公共団体において計測震度計、加速度計の整備が行われていることから、これらの機関により地震計の整備が行われている市町村にあっては当該機関の設備を利用することとし、それ以外の市町村にあっては、本事業により新たに計測震度計の整備を行いました。
(1)気象庁施設利用
気象庁においては、全国で約600箇所に計測震度計施設を有しており、このうち約200台については、市町村庁舎の敷地内に配置されています。そこで、これらの市町村にあっては分岐端子を利用して市町村庁舎において震度表示(表示装置)を行うとともに、そのデータを都道府県へ伝送しています。
(2)科学技術庁施設利用
科学技術庁(防災科学技術研究所)では、地震の調査・研究のため全国で約1000箇所に強震計(加速度計)施設を有しており、このうち約500台については、市町村庁舎の敷地内に配置されています。そこで、これらの市町村にあっては分岐端子を利用して加速度データを市町村に伝送し、市町村庁舎において震度に変換・表示(処理装置)を行うとともに、そのデータを都道府県へ伝送しています。
(3)新設計測震度計
全国3255市町村の内、上記気象庁、科学技術庁施設を利用できない市町村にあっては、新たに計測震度計を市町村敷地内等へ設置することとなり、その数は約2600台となっています。これらについても市町村庁舎において震度表示を行うとともに、そのデータを都道府県へ伝送しています。
(1)観測密度
震度情報ネットワークシステムによる震度観測点は、現在のところ約3300点となります。これは、約11kmメッシュに一台の観測体制を整備したこととなります。なお、横浜市のように市内に約150台の地震計を設置して、さらに詳細な震度分布を把握しようとしているところもあります。
震度分布をどこまで細かく把握するかは、その地域の社会環境、自然条件によって左右されますので一概には言えませんが、今後は無駄な投資を避けるため、適正な震度計の配置基準が求められてくるものと考えています。
(2)通信回線の耐震性
「ネットワーク」と言っている以上、「点」と「線」によって構成されているシステムであり、特に、「線」の部分については耐震性が求められてきます。各点では震度が観測され表示されますが、その情報を次の機関へ伝達する線が切れてしまった場合には、それ以上先には情報は伝わりません。
現在の震度情報ネットワークシステムでは、各都道府県と消防庁との間はISDN回線を用いています。これは基本的には有線回線であり地震に必ずしも強いものではありません。今後は、衛星系を利用したバックアップ回線を確保する必要があると考えています。また、各市町村と都道府県との間も一般公衆回線を利用している団体が多くあります。これについても耐震性の問題は否定できません。
一方、地震により電話線が切れて震度データが伝送されてこなかった場合は、「電線が切れるぐらいの」地震だったのだとする「被害想定」が可能かもしれませんが…。