東京を中心とした首都圏は、政治・文化・経済等の機能が集中した世界有数の過密都市であり、そのため東京ガスでは大地震発生時の二次災害防止のために諸々の対策を講じている。今回は、その一つとして2001年7月稼動を目指して開発を進めている約3,700基の新SIセンサーを用いた超高密度リアルタイム防災システム -SUPREME(Super-dense Realtime Monitoring of Earthquakes)- を紹介する。
図1 新SIセンサー構造図
SUPREMEでは地震情報を新SIセンサーによって計測する。東京ガスでは非常に低価格で高機能・高精度を実現させた新SIセンサー(図1参照)を(株)山武と共同開発し、2000年3月現在既に約1,100ヶ所に設置され稼働中である。
新SIセンサーは、都市ガスの圧力調整器(地区ガバナ)に地震発災時に感震遮断させる目的で設置されている。その制御遮断用に無電圧リレー接点出力、計測用にSI値・加速度のアナログ出力、液状化警報出力を持つ。
測定値:SI値(平面内ベクトル合成SI値)・加速度(XYZ3軸)
計測範囲:±2,000Gal
周波数特性:DC~50Hz(-3db)
計測精度:±5%(直線性・周波数特性・温度特性等全て含む)
警報出力:SI値/加速度論理組合せ・設定値任意設定可
波形記録:サンプリング周波数100Hz・分解能1/8Gal・50秒/1地震×6地震データを内部RAMに保存
アナログ出力:SI値・加速度(4-20mA)
デジタル出力:警報出力・液状化警報・自己診断結果(軽故障・重故障)
新SIセンサーの機能で最も特徴的な機能は液状化判定機能である。地盤の液状化は、被害を推定する上で非常に重要なデータとなるが、従来は大規模なボーリング工事が必要であった。新SIセンサーでは液状化時の地震波形の変化を加速度Amax、SI値、推定変位D(2SI2/Amax)、推定周期(T)を用いて、以下の4条件を満たしたときに液状化が発生したと判定しているため、非常に簡便に液状化を把握でき、面的な液状化を判断できるようになる。なお、ここで推定周期(T)とは、新SIセンサーで計測される加速度地震波形がゼロ線を横切る時間間隔の2倍(ゼロクロス周期)としている。
(I)Amax>100gal (II)SI値>20kine (III)D>10cm (IV)T>2sec
図2に過去70地震の波形を分析し液状化判定を実施した結果を示す。今回開発した測定法を用いれば、ほぼ100%の液状化の判定がリアルタイムで可能である。この世界初の技術により液状化検知が非常に安価に実現できる。
図2 液状化判定結果
表1 SUPREME観測データ
図3 現状のSIGNAL・SIセンサー配置図
図4 SUPREME・新SIセンサー配置図
東京ガスでは既に332局の地震計を用いた“SIGNAL"(図3参照)を運用しているが、阪神大震災を教訓として、それに加えて1998年1月より供給区域、約3,100km²に対して約3,700基の地震計(新SIセンサー)を設置しモニタリングする世界一高密度な“SUPREME"の構築を開始した。図4に新SIセンサー全数設置後のセンサー配置図を示す。約0.9km²に1ヶ所という密度でSI値、PGA(地表面最大加速度)、圧力、ガバナ遮断、液状化警報の遠隔監視が可能となる。SUPREMEで観測可能なデータは表1の通りである。
SUPREMEの大半の地震計の情報は一般公衆回線を通じて収集されるため、いくつかの観測点の地震情報は収集不可能となりうる。従って事前に供給エリア内の全ての観測点の相対的な揺れやすさを把握しておき、地震時にデータが得られなかった観測点についても、データが得られた観測点のデータを用いて予測することができるようにしておく必要がある。現在新SIセンサーで得られた中小の地震波形記録を用いた各観測点の揺れ易さ分析を行っている。またこの揺れ易さの分析結果により、現在行っている地区ガバナ自動感震遮断方法をより一層合理的なものに調整することも可能となる。
超高密度の地震動観測を被害推定などに用いるためには、地震計データと地震計の周辺の地震動との対応付けが不可欠である。東京ガスでは、50,000本を超えるボーリングデータや、独自に作成した地形等のデータのGIS(防災GIS)への登録を開始し、高精度地盤ゾーニングを進めている。
(i)超高密度に計測されるSI値と供給区域内のガス導管、地盤データ、地形データを取り込んだGISを組み合わせることによる高精度被害推定の実施を行う。
(ii)毎年蓄積される中小地震の地震波形データとGISデータを分析することにより、約3,700地点それぞれの揺れやすさを求め、ゾーニングへの反映や緊急措置実行の最適化を行う。
(iii)リアルタイム液状化検知が、きめ細かく実行されることから、高精度被害推定・的確な緊急措置実行が実現可能となる。
今後、SUPREMEで得られる超高密度な中小地震波形については、CD-ROM等に保存し年1回程度の頻度でデータ公開していく予定である。また3,700点の超高密度地震情報についてもwebサイト等を通じてリアルタイム配信を行う予定である。
図5 50,000本ボーリングデータ
図6 地層縦断図
図7 ボーリング柱状図・液状化判定