第15回 台湾における強震観測ネットワーク【日本語訳】Publications

台湾における強震観測ネットワーク

温 國梁(中央大学・地球物理研究所)

台湾は環太平洋地震帯に位置しており、地震活動度が非常に高いことで知られている。このため地震の破壊的な力から生命と財産を守ることは、この地域の人々の大きな関心事である。地震による被害は第一義に強震動によって生じる。強震動から生命及び財産を守るには、耐震規定と耐震設計の誠意ある適用、及び適切な土地利用を促す政策の実施と適切な耐震補強の実施が必要になる。このような地震防災の諸手法は、大地震時の強震記録に基いたものでなければならない。すなわち耐震建築の設計から、震源メカニズムの決定、サイト特性を含む震源から観測点までの伝播特性の理解まで、強震記録が第一義に重要なのである。過去数年間に、強震動地震学は驚くほどの発展を遂げた。中でも最も重要な出来事は、地表・地中を含む台湾における超高密な強震観測網の設置である。この強震観測網にはSMA-1ネットワーク、SMART II、TSMIP、LSST、及び台北盆地におけるボアホールアレーが含まれる。ここから得られたデータは、地震動における震源、伝播、サイト特性を研究する素晴らしい機会を提供してくれた。特に表層地盤における非線形特性の解析から非常に興味ある結果が得られている。その他の研究活動、例えば数値モデリングや物理的モデルの構築などもここ数年間で飛躍的な成長を遂げている。

SMA-1ネットワーク

この109個の加速度計からなる広域の強震計ネットワークは、中央研究院・地球科学研究所(Institute of Earth Sciences Academia Sinica; IESAS)によって1974年から運営されている。始めての記録は1976年4月に得られている。このネットワークの主な目的は、震源、距離減衰、構造物の応答、地震危険度解析の研究である。加速度計は48がアナログ式で、61がデジタル式記録システムである。それらの多くは自由地盤上に設置されているが、幾つかは人工の構造物内に置かれている (Chian et al., 1991; Chiu et al., 1992; Huang et al., 1994) 。

[IESASにより運営; http://www.earth.sinica.edu.tw

図1:SMART-2における観測点の配置(40点の地表観測点と2点のボアホール観測点)
図1:SMART-2における観測点の配置(40点の地表観測点と2点のボアホール観測点)

SMART II

1990年に成功のうち終えた有名な羅東(ロートン)のSMART-Iアレーの後、SMART-II(Chiu et al., 1994)と呼ばれる新しい強震観測アレーがIESASによって1990年12月に花蓮(ホワリエン)市に設置され、1992年からフル活動を開始した(図1)。このアレーは45点の地表観測点で構成され、約110 km2の地域をカバーしている。ボアホール加速度計も北埔(ペイプー)とMeilun Industry Parkの大理石工場に設置された(Building Array)。レコーダーでは16ビットの解像度で記録しており、2MBのメモリーとGPSを組み込んでいる。地表の観測点では、加速度計はコンクリートの基礎(120cm*120cm*10cm)上にアンカーで固定されており、センサーやレコーダーもFRP製の被いで保護されている。このアレーは地震学及び工学的双方の目的に合うように設計されている。

[IESASにより運営; http://www.earth.sinica.edu.tw

図2:TSMIPによる観測点の配置
図2:TSMIPによる観測点の配置

TSMIP

Taiwan Strong Motion Instrumentation Program (TSMIP)は、1991年7月1日から 1997年6月30日までの6年計画で、中央気象局・地震センター(Seismological Center, Central Weather Bureau; CWB)によって遂行された(Shin, 1993; Liu et al., 1994; Kuo et al., 1995; Wen et al., 1995)。この計画により、600点におよぶ地表の強震観測計(図2)と、9つの都市圏における400×3チャンネルからなる強震動モニターリングシステムが設置された。この計画の主な目的は、異なる地質条件における強震動特性と各種の構造物の地震応答(建物アレー)を研究することある。全ての結果は現行の耐震規定や設計用地震入力スペクトルの改善に応用することが可能である。全強震観測点は同じ設計であり、コンクリート製の基礎の上に、繊維ガラス製の小さな被いで覆われている。センサーはサーボ型加速度計で、16ビットの解像度を持ち、2gまでの地動が観測可能である。全観測点がAC電源を持っているが、地震やその他の理由で停電した場合、記録システムの持つDC電源により約4日間は稼動できる。

[CWBにより運営; http://www.cwb.gov.tw

LSSTネットワーク

Lotung(羅東)Large Scale Seismic Test Program (LSST)は、Taiwan Power Company (Taipower) と Electric Power Research Institute (EPRI)の共同研究プロジェクトである。 Taipowerとの契約によりIESASが機器の設置から維持、記録の収集・解析までを行っている。1985年10月の終わりまでにIESASの技術者により全ての機器が設置され、成功裏のうちに会社の技術者から委任されている。
計画の初期段階では4種類の計器が設置された。それらは地表、地中、構造物内の各種加速度計、及び圧力変換計である。圧力変換計を除いた他の計測器は3軸の強震加速度計である。全ての加速度計及び圧力変換計の出力はケーブルによって集中観測装置に送られる。LSST1は1990年末に終了した。
地震の際に近地の地震動を記録するため、LSST2の設置の候補地として台湾東部におけるHualien(花蓮)Veteran's Marble Plantが選ばれた。LSST2には2種のモデルがある。一つは4分の1スケールの円筒形の格納容器モデル、他は円筒形の液体貯蔵タンクモデルで、格納容器モデルから40m離れて設置されている。前者は1993年9月から、後者は 1995年9月からスタートした。この計画では、15の地表加速度計、12のボアホール加速度計、及び格納容器モデルの地震応答を計測するために15の加速度計が設置された。全観測点とも3軸のサーボ型加速度計である。他方、液体貯蔵タンクモデルには4つの3軸加速度計と19の1軸加速度計が設置されている。

[IESASにより運営; http://www.earth.sinica.edu.tw

図3:台北盆地における強震観測点。白抜き三角形はTSMIPの観測点、黒い三角形はボアホール観測点を示す。
図3:台北盆地における強震観測点。白抜き三角形はTSMIPの観測点、黒い三角形はボアホール観測点を示す。

台北盆地におけるボアホールアレー

工学目的である建設や地下水の管理、地盤沈下の予測から、地震波の盆地効果や地質学の研究等を目的として、5年計画のプロジェクトが「台北盆地の表層地質と環境工学に関する総合研究(Integrated Survey of Subsurface Geology and Engineering Environment of the Taipei Basin)」により提案された。計画の中でIESASが波動伝播における盆地効果の研究を委託された(Yeh et al., 1994; Wen et al., 1994, 1999)。このプロジェクトでは基盤から地表までの地震波の変動を解析するために、1年で1観測点の割合で台北盆地にボアホールアレーを設置(DART)することを提案している。これまでWuku Industry Areaの下水処理場(WK)、Panchiao Water Conservancy Bureau(BS)、Panchiao Committee for Retired Servicemen(TF)、Luchouの揚水ポンプ所(LC)、Chunghsin 橋(HS), Sungshan タバコ工場(SS)、及びMingchuan 公園(MP)において機器の設置が終了している(図3)。各観測点は、1つの地表加速度計と幾つかの地中加速度計から構成されている。これらのサーボ型加速度計はPC利用の集中記録装置、またはGPSによる時刻及び位置情報を持ったK2のデジタル記録装置に接続されている。

[IESASにより運営; http://www.earth.sinica.edu.tw

(訳:工学院大学・久田 嘉章)

原文(English Version)はこちら

参考文献

Chian, C. C., T. Y. Hou, C. C. Liu, and Y. T. Yeh (1991). Observation report of the strong motion station at Liyutanreservoir, Open-file report of the IESAS.
Chiu, H. C., S. D. Ni, H. C. Huang, C. C. Liu, C. Z. Lin, and Y. T. Yeh (1992). Effects of the Canyon topography and the dam site behavior under the strong earthquake - (I) Installation and testing report of the strong motion seismometer, Institute of Earth Sciences, Academia Sinica, Open-file Report IESCR92-002.
Chiu, H. C., Y. T. Yeh, S. D. Ni, L. Lee, W. H. Liu, G. F. Wen, and C. C. Liu (1994). A new strong-motion array in Taiwan : SMART-2, Ter. Atm. Oce., 5, 463-475.
Huang, C. F., L. Chiang, C. C. Tsai, T. Y. Hou, W. S. Liu, and C. C. Liu (1994). Strong-motion observations around the Liyutan reservoir area, Taiwan, Institute of Earth Sciences, Academia Sinica, Open-file Report, 27pp.
Kuo, K. W., T. C., Shin, and K. L. Wen (1995). Taiwan strong motion instrumentation program (TSMIP) and preliminary analysis of site effects in Taipei basin from strong motion data, in Urban Disaster Mitigation: The Role of Engineering and Technology, Edited by F. Y. Cheng and M.-S. Sheu, Elsevier Science, 47-62.
Liu, K. S., T. C. Shin, W.H.K. Lee, and T. B. Tsai (1994). Taiwan strong-motion instrumentation program ? The characteristic comparison of free-field accelerographs, Meteorological Bull., Central Weather Bureau, 39, 3, 132-150.
Shin, T. C. (1993). Progress summary of the Taiwan Strong Motion Instrumentation Program, Proc. of the Symposium on Taiwan Strong Motion Instrumentation
Wen, K. L., Y. T. Yeh, and Y. H. Yeh (1994). Study of basin effects on Seismic wave (I), Central Geological Survey, Ministry of Economic Affairs, Report 83-018.
Wen, K. L., H. Y. Peng, L. F. Liu, and T. C. Shin (1995). Basin effects analysis from a dense strong motion observation network, Earthq. Eng. Struct. Dyn., 24, 8, 1069-1083.
Wen, K. L., Y. T. Yeh, C. C. Liu, H. Y. Peng, L. F. Liu, and C. F. Wen (1999). Study of the basin effects on seismic waves, Special issue for the subsurface geology and engineering environment of Taipei basin, Spec. Publ. Central Geological Survey, No. 11.
Yeh, Y. T., K. L. Wen, and Y. H. Yeh (1994). Study of basin effects on Seismic wave (I), Central Geological Survey, Ministry of Economic Affairs, Report 83-004.

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