写真1.筆者ら(左から小宮山,ザヒデ,トゥライ)
1999年8月17日、イズミット・ギョルジュク近傍を震源とするMw=7.4の地震(コジャエリ地震)が発生した。公表された犠牲者の数だけでも1万7千人を越し、近年にない大災害となったことは記憶に新しい。
トルコでは、公共事業住宅省防災局(AFET)およびボアジチ大学カンディリ地震研究所(Kandilli)が強震観測を行っている。前者は国家防災行政の一環として、また後者は学術利用を目的としている。なお、この他にも、たとえば国家水利総局(DSI)が、管轄するダムなどの構造物に強震計を設置し、記録を収集しているが、残念ながら一般には公開していない。ここでは、筆者の職場であるAFETの強震観測について報告する。
AFETには、地震を専門的に扱う地震研究部(地震観測、地震工学、実験の3部門から構成)がおかれており、強震観測は実験部門に属する強震観測班が手がけている。発足は1973年で、現在、総勢8名(地質3、地球物理3、数学1、機械1)の若手(平均年齢は25才前後と推察される)が観測にあたっている。
図1.全国地震危険度マップ(1997,公共事業住宅省防災局)および既知の活断層(MTA)
図2.強震観測班による全国強震観測網
トルコには、大きく分けて3つの地震活動地帯がある。北部黒海沿岸の内陸部を東西に縦断する北アナトリア断層と、東部のイラン国境から地中海に向かう東アナトリア断層に沿ったそれぞれの地帯、そして、西部の地溝帯である。AFET作成の地震危険度マップ(1997)においてもこれらの地帯は最高危険度を示している(図1)。
こうした地震活動地帯を中心として、図2のように合計118点の観測点が設置されている。観測点の設置場所は、公共事業住宅省地域支部や各地の気象台、市町村役場、郵便局、病院、学校などの公共施設となっている。
観測機材の内訳は、表1に示すとおり、アナログタイプ67台、デジタルタイプ59台である。前者は67台すべてが、また、後者は8台の予備を除く計51台が観測点に配備されている。なお、地震多発地帯であるトルコ東部には、デジタルタイプの強震計が優先的におかれている。これは、モデムを利用した、定期的な状態確認による良好な観測態勢の維持と、素早い記録の収集を行うためである。
8月17日のコジャエリ地震において、サカルヤ観測点(震央から約40km)では最大加速度407mG(東西方向)を記録したが、残念ながら南北方向はノイズのみの記録であった。これを機に、巡回点検などの充実を通じて機材の維持・管理を徹底しようとする動きもあるが、広域に散在する観測点ひとつひとつを定期的に訪ねる余裕がないため(人的資源および予算)、今のところ実現は困難である。
アンカラの強震観測班が強震記録を収集してから10分~1日程度で、強震記録がWebサイトに置かれ、広く一般に公開されている。強震観測班の活動が通常の業務時間に限られているため、夜間あるいは休日に発生した地震の記録収集は、通常の場合、翌出勤日となる。現在、夜間でも必要に応じて記録の収集が可能となるよう、記録収集の自動化が検討されている。また、ポケットベルや携帯電話のディスプレーに強震情報を表示する試みなどアレコレが考えられている。今後が楽しみである。
なお、上述の強震観測班によるWebサイトのURL(代表)は、
http://angora.deprem.gov.tr/
となっている。強震記録そのものも、上記サイトから入手可能である。参照されたい。
また、強震記録に関する問い合わせは、筆者のひとりであるTulay UGRAS宛にいただければ幸いである。
Ms. Tulay UGRAS(トゥライ・ウーラシュ)
ugras@deprem.gov.tr
General Directorate of Disaster Affairs, Earthquake Research Department
Laboratory Division, Strong Ground Motion Working Group
Tel. +90-312 285-5305
日本政府の技術協力の一環として、1993年からJICA地震防災研究センタープロジェクトが開始された。同プロジェクトは、トルコの国家防災行政を支援するための強震観測網サブセンター(EDCVE)をAFET地震研究部に、また学術支援を目的とした地震工学サブセンターをイスタンブール工科大学に展開している(2000年3月で終了の予定)。EDCVEでは、強震記録の収集と被災規模の推定のための強震観測網システムが整備され、1997年から定常稼働している。これは、トルコ中北部の北アナトリア断層近傍を含む黒海沿岸のサムソンからアンカラ近郊までの地域(およそ9万平方km。北海道と四国を足した面積に近い)に9点の観測点を設置し、地震発生と同時にアンカラ中央センターとサムソン地域センターにおいて観測記録の一括受信、地震パラメータの算定、被災規模の推定を自動的に行うパイロットシステムである。今後、トルコ政府による観測エリアの拡大が期待されている。
当システムの各観測点では、センサーにVSE-355JE(東京測振)、記録装置にSAMTAC-16X(東京測振)を利用している。収集された強震記録は、以下のWebサイトで公開している。
http://www.deprem.gov.tr/edprc/recent.html
また、強震記録に関する問い合わせは、プロジェクトのカウンターパートであるNur UMUTLU宛にいただければ幸いである。
Ms. Nur UMUTLU(ヌル・ウムトゥル)
umutlu@deprem.gov.tr
General Directorate of Disaster Affairs, Earthquake Research Department
JICA Earthquake Disaster Prevention Research Center
Tel. +90-312 287-3645
AFETにおける強震観測には、27年の歴史がある。当初、数台のアナログ強震計を設置して開始された観測も、今では120台に迫ろうとしている。アナログからデジタルへの過渡期でもある。観測担当者の世代交代で、現在の観測業務の担い手は若干20代の若者達である。経験も少なく粗削りである上、指導的な立場の中堅研究者も不在である。そのため、収集した強震記録の検査や解析は今後の課題となっている。本邦地震研究者の皆様のご支援・ご協力をお願いしたい。
他方、JICAプロジェクトの一環として構築された強震観測網システムは、限定された観測エリアながら、強震観測の自動化のモデルとして国内外の強震関係者の注目を集めている。当プロジェクトが本年3月をもって終了することから、以降は、トルコ側の自助努力で運営・展開していくことになる。そこで、こちらについても同様に、本邦地震研究者の皆様のご支援・ご協力をお願いしたい。