運輸省港湾技術研究所では1962年より港湾地域において強震観測を実施し、1996年末までに5223個の強震記録が観測・蓄積されている。1998年9月現在では図に示す60港に96台の強震計が設置されている。これらの強震計で観測された記録は港湾施設の被害原因の究明や港湾構造物の耐震設計法の検討のための基礎資料として利用されている。
以下では、これら港湾地域強震観測の概要を中心に述べ、最後に空港における強震観測の現状について紹介する。
港湾地域強震観測ではSMAC-B2強震計、ERS-B,ERS-C,ERS-D,ERS-F,ERS-G型強震計の全部で6種類の強震計を使用している。これは、既設の観測点で旧型の強震計が更新されずに残っているためであり、耐用年数満了を待って順次、最新型のERS-G型に更新していく予定である。
各強震計の概要については、ほぼ毎年刊行されている港湾技研資料「港湾地域強震観測年報」において、各年に観測された強震記録とともに公表している。 SMAC-B2型・ERS-B,C,D型強震計はアナログ記録方式であるが、今後数年のうちに全てデジタル型のERS-G強震計に更新される予定である。現在、各港湾の強震計をISDN回線でオンライン接続する作業を進めており、数年の内には ERS-G型の強震計については遠隔操作でのデータ取得や観測機器の点検を行うことが可能になる。
一部の港湾では地中・基盤面や構造物上での強震観測が行われている。また、間隙水圧計が設置されている港湾もある。これは、強震観測の目的の一つに港湾が被災した場合の原因究明があり、液状化の状況や桟橋等の構造物の振動特性の把握するためである。
これら港湾地域強震観測は、運輸省港湾局・運輸省港湾建設局・北海道開発局港湾部・沖縄開発庁沖縄総合事務局・東京都港湾局・静岡県港湾課・大阪市港湾局とこれら各機関の強震観測担当者の協力により行われている。
観測された強震記録のうち、20Gal以上のものについては前述の港湾技研資料「港湾地域強震観測年報」にてオリジナル加速度記録波形を報告し、50Gal以上のものについてはオリジナル加速度記録波形・補正加速度記録波形・SMAC相当加速度記録波形・速度波形・変位波形・応答スペクトル・フーリエスペクトル・水平面内の加速度・速度・変位の軌跡について報告している(1994年港湾地域強震観測年報まで既刊)。また、大地震時の強震記録については本震および余震時の観測記録について特集した港湾技研資料を別途発行している(1995年兵庫県南部地震特集号まで既刊)。これらデジタルデータのうち、港湾技研資料に掲載したものについては情報交換の一環として大学・民間(研究者・実務者・マスコミ等)に要望があれば提供しており、提供にあたっては港湾技術研究所(地盤震動研究室)が窓口になっている。
強震計設置地点の地盤条件等については、非定期的に刊行される港湾技研資料「港湾地域強震観測地点資料」にて公表されている。現在最新版の地点資料を作成中であり、1998年度中に刊行する予定である。
港湾技術研究所では港湾・海岸施設だけでなく空港土木施設に関する研究も行っており、空港における強震観測の実施と観測された強震記録の解析も運輸省航空局や東京空港工事事務所等と共同で行っている。図には強震観測を実施している空港の配置も示している。1997年度から運輸省航空局では空港における強震観測の実施を進めており、今後数年の内に強震観測を実施している空港の数は急増する見込みである。
これら空港における強震観測は、比較的最近に観測開始されたことや、実施主体が運輸省航空局・運輸省第二港湾建設局東京空港工事事務所・新東京国際空港公団・関西国際空港株式会社と多岐に渡るため、港湾技術研究所からのデータ公開等については今のところ予定していない。今後、空港における強震観測網の整備が一段落した時点で検討されるものと思われる。
港湾地域強震観測では今後、1)地表・地中での二点観測の推進、2)全観測地点のデジタル化およびオンライン化の2項目を重点課題として取り組んで行く予定である。
また、既に観測を中止したところを含め、全観測地点の地盤情報(ボーリング記録など)の整理を現在行っており、土質条件をまとめた地点資料を1998年度中には刊行できる見込みである。観測・蓄積されたデジタルデータの提供に関しては下記の地盤震動研究室が窓口となっているが、データ量が膨大であるため、WWWやCD-ROMによるデータ提供についても現在検討している。
〒239-0826 横須賀市長瀬3-1-1
運輸省港湾技術研究所 地盤震動研究室
強震観測担当 一井 康二・佐藤 幸博
Tel:0468-44-5028 / Fax:0468-44-0839
E-mail:satoh_yuk@cc.phri.go.jp