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2022年度日本地震学会賞、論文賞、若手学術奨励賞、技術開発賞受賞者の決定について(2023年3月20日掲載)News & Topics

公益社団法人日本地震学会理事会

日本地震学会賞、論文賞および若手学術奨励賞の受賞者選考結果について報告します。
2023年1月31日に応募を締切ったところ、日本地震学会賞1名、論文賞10篇、若手学術奨励賞5名の推薦がありました。理事会において各賞の選考委員会を組織し、厳正なる審査の結果、2023年3月15日の2022年度第7回日本地震学会理事会において、下記のとおり日本地震学会賞1名、論文賞3篇、若手学術奨励賞3名を決定しました。なお、技術開発賞は応募がなかったため、選考は行われませんでした。

各賞の授賞式は2023年度秋季大会の場において行う予定です。

日本地震学会賞

受賞者

趙 大鵬

授賞対象業績名

トモグラフィー手法による地球内部ダイナミクスの解明

受賞理由

受賞者は、1990年代の初めに博士課程の研究の一環として地震波トモグラフィー手法を開発し、これを活用した日本列島直下のP波・S波速度の3次元構造を明らかにする研究で成果を上げたことを皮切りに、世界各地の地殻やマントルの3次元地下構造を明らかにし、さらに大地震の震源域における微細な速度構造の空間変動をとらえてそれを解釈することにより、その発生機構の解明に貢献した。同様に、沈み込むプレート周辺の速度構造からマントル・ダイナミクスの解明に重要な役割を果たすとともに、地震・火山噴火現象の発生要因の解明にも大きな成果を挙げた。これらの複数の地震学・地球ダイナミクス・火山学・テクトニクスに関連する分野において30年間にわたって世界最先端の研究をリードしてきていることは特筆に値する。

受賞者は地震波速度不連続面が3次元形状を有する3次元不均質構造内での効率的な波線追跡手法の開発等により、地震波走時トモグラフィー法を高度化し、空間的に高解像度の構造把握を可能とした。そのプログラムは無償で公開され、有効なトモグラフィー手法として世界で広く利用されている。さらにその手法を拡張することで、地震波減衰構造推定や異方性構造推定も可能な手法を開発し、その応用の場を広げてきており、地球内部の動的プロセスの推定に活用してきている。

受賞者は同定した3次元構造により様々な新たな知見を明らかにしている。例えば1995年兵庫県南部地震の震源域でのトモグラフィーでは、断層に沿って低速度・高ポアソン比の領域が明瞭にイメージされ、地震発生に水が重要な役割を果たしている証拠を提示している。東アジア地域のマントルトモグラフィーからは、横たわる太平洋スラブによって大規模なビッグ・マントルウエッジ(BMW)が生成されるとするモデルを提唱し、プレート内部地震と火山の起源の関係を説明している。同モデルはプレート境界から遠く離れた火山活動を説明する普遍的なモデルの可能性がある。受賞者の得た成果は氏が意図した分野での引用や応用に留まらず、強震動地震学の分野や岩石学の分野でも広く引用され、その与えた影響は幅広い分野に及ぶものであると言える。

受賞者の研究成果は、推薦書の業績リストによれば、359篇の著書・査読付き論文に結実しており、またその引用件数総数は2万件を越えていて、業績は数だけではないということは言うまでもないこととしても、その影響は世界的に大であると認められる。また受賞者は近年の地震学会秋季大会等においても精力的に最新の成果を公表している。

以上のことから、2022年度日本地震学会賞を授賞する。

論文賞

1.受賞対象論文: Improvement on spatial resolution of a coseismic slip distribution using postseismic geodetic data through a viscoelastic inversion

著者:Fumiaki Tomita, Takeshi Iinuma, Yusaku Ohta, Ryota Hino, Motoyuki Kido & Naoki Uchida
掲載誌:Earth Planets Space (2020), 72, 84
DOI:10.1186/s40623-020-01207-0

受賞理由

測地観測によって捉えられてきた巨大地震後の余効地殻変動には、余効すべりと粘弾性緩和のシグナルが重畳している。余効すべりの推定では、地震時の測地・地震データなどから予め推定された地震時すべりモデルを基に、フォワード計算により期待される粘弾性応答を差し引いた上で評価がされることが多い。つまり、地震時すべり分布は、地震時のデータのみで規定され、かつ、その推定の不確定性の影響が、余効すべりや粘弾性応答を含めた余効変動の評価に系統的な影響を与えることになる。

著者らは、既存観測点で地震時に観測された測地データに、地震後に緊急的に開始される観測から得られる余効変動のデータも併用し、粘弾性グリーン関数を用いることにより、地震時すべり・余効すべり・粘弾性応答の影響を同時推定する手法を新たに開発した。内陸横ずれ断層と沈み込み帯のプレート境界地震を模したシミュレーションデータを用いて検証を行い、例え地震発生後であっても震源断層付近に測地観測点を増やして余効変動のデータを取得することで、地震時すべり分布の空間解像度の改善が期待されることを示した。この手法を2011年東北地方太平洋沖地震の実データに適用し、地震後に大幅に観測点が増強された海底地殻変動のデータを地震時地殻変動データに加えて利用することで、地震時すべり分布の空間解像度の向上に成功した。粘弾性緩和を地震時すべりの記憶として用いる興味深いアイデアを解析スキームに実装し、シミュレーションと実測データを用いてその有用性を明快に示した。

地震時の地殻変動を多くの観測点で観測できることが理想ではあるが、特に海域では、地域によって観測点密度に大きな差がある。本論文の成果は、仮に観測網が手薄な地域でも、地震発生後に観測点を増設することで、確度の高い地震時すべりの推定を可能とする画期的なものである。地震後の緊急観測の重要性を実証するとともに、得られる貴重な観測データを最大限に生かす枠組みを提示したことは、観測研究に新たな展開をもたらすことが期待され、関連分野への幅広い波及効果も見込めるものであり、地震学に対する学術的な貢献度が極めて高いと評価できる。

以上の理由により、本論文を2022年度日本地震学会論文賞受賞論文とする。

2.受賞対象論文:Weak faults at megathrust plate boundary respond to tidal stress

著者:Takashi Tonegawa, Toshinori Kimura, Kazuya Shiraishi, Suguru Yabe, Yoshio Fukao, Eiichiro Araki, Masataka Kinoshita, Yoshinori Sanada, Seiichi Miura, Yasuyuki Nakamura & Shuichi Kodaira
掲載誌:Earth, Planets and Space (2021), 73, 89
DOI:10.1186/s40623-021-01414-3

受賞理由

潮汐はプレート境界の応力変動を通じ、通常の地震やスロー地震を誘発すると考えられている。特にスロー地震の誘発では、断層内の流体の関与によりプレート境界の物理特性が変動することが指摘されている。しかし、プレート境界の物理特性の潮汐応答を観測した研究は、これまでほとんどなかった。本論文は、プレート境界浅部域構造の潮汐応答を直接観測に基づいて検出するとともに、断層面内の流体移動が物理特性変動をもたらしていることを示唆した。

著者らは、南海トラフ巨大地震の発生域にある、紀伊半島沖のプレート境界浅部のスロースリップがくり返し発生しているとされる場所の直上域で海底地震観測を行い、掘削船「ちきゅう」の船体騒音に由来する微動記録からP-to-s反射波を抽出し、その反射強度が潮汐応力と関連して時間変化していることを示した。また、反射強度が潮汐応答している反射面の位置をマイグレーション手法により特定し、詳細な反射法地震探査断面との比較を通じ、巨大分岐断層等、プレート境界近傍の複数の断層が弱面となっていることを突き止めた。さらに、観測されたP-to-s反射強度変動の大きさから、適切な定量的物理モデリングを通じ、断層破砕帯内の流体の連結度の変動がプレート境界の物理特性変動に寄与しているという示唆を得た。

本論文で特筆すべきことは、適切な解析手法を用い、潮汐に対するプレート境界の微小応答を高精度検出したことである。微動解析によるモニタリングは、震源と地下構造の影響の分離が重要であることが指摘されていたが、著者らは、震源特性が明らかなデータ(掘削船「ちきゅう」が掘削をしていない時に発する微動)のみを用いることでこの問題を解決している。また、地震学的特性変化の検出だけで満足せず、地震学的観測を流体の幾何学形状と結び付けた点も意欲的である。プレート境界域における流体のふるまいを明らかにすることは、潮汐による地震誘発機構の理解に本質的進展をもたらす。

本論文は、プレート境界域の状態変化は、その空間分布も含めて直接観測可能であることを強く示し、更なる観測研究への動機づけとなると期待される。またプレート境界近傍の弱面分布や流体に関する知見は、巨大地震の発生過程や、プレート境界の準静的な動きに関する研究など、周辺の広い分野に刺激をもたらすものと期待される。

以上の理由から、本論文を2022年度日本地震学会論文賞受賞論文とする。

3.受賞対象論文:Evolution of the geological structure and mechanical properties due to the collision of multiple basement topographic highs in a forearc accretionary wedge: insights from numerical simulations

著者:Ayumu Miyakawa, Atsushi Noda & Hiroaki Koge
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science (2022), 9, 1
DOI:10.1186/s40645-021-00461-4

受賞理由

日本列島周辺域をはじめとするプレート沈み込み帯では、海溝型巨大地震や低周波地震・スロースリップなど、多様な時空間スケールを持つ地震活動が観測される。これらの地震活動には、様々な要因が複雑に関与するものと考えられており、特に、海山や海嶺のような沈み込む海洋プレート上面の起伏(以下、海山と表現)は大きな影響を与えるものとして注目されている。海山の沈み込みに伴う付加体の地質構造の発達過程とそこでの力学特性の時空間発展の解明は、沈み込み帯における地震の発生メカニズムの理解につながるものとして期待される。

これまで、海山の沈み込みによる地質構造への影響は、単独の海山の沈み込みモデルにより検討されてきた。しかし、実際の海洋プレート上面には複数の海山から成る周期的な起伏が存在し、現在の沈み込み帯の構造は、地質学的時間スケールで海山の沈み込みを繰り返し経験した結果として理解されるべきものである。本論文は、個別要素法による数値シミュレーションにより、海山列の沈み込みをモデル化し、複数の大規模断層を含む付加体の独特な地質構造の発達過程を再現すると共に、その内部で進行する応力及び間隙率の時空間発展を初めて明らかにした。この中で、沈み込んだ海山の後方(海側)には未変形領域が形成されること、その領域では次の海山の沈み込みにより水平圧縮応力が高まり間隙率が低下すること、その結果として高圧間隙水圧帯が形成されるという一連の過程を説明することに成功した。これらの結果は、熊野沖の南海トラフ付加体における地質構造及び高圧間隙水圧帯と関連付けられ、現在の南海トラフが海山列の沈み込みによる影響の下に形成されたことを示唆する。また、南海トラフにおける浅部低周波地震の発生域は、前述した海山間に形成される高圧間隙水圧帯に対応する。これは、沈み込み帯浅部における地震の発生に海山列の沈み込みが重要な役割を果たしている可能性を示しており、特筆すべき成果である。更に、本論文は、地質学と現代の地震観測技術による研究成果をつなぐ点でも優れている。このような学際的な研究は、新しい視点から地震学の発展に大きく貢献するものである。

以上の理由から、本論文を2022年度地震学会論文賞受賞論文とする。

若手学術奨励賞

1.受賞者:奥脇 亮

受賞対象研究

高自由度な震源過程イメージングによる破壊成長の複雑性と断層形状の関係の究明

受賞理由

断層形状の複雑性が地震の破壊伝播に及ぼす影響を解明する研究は、地震発生物理の理解に重要である。受賞者は、地震波形データの解析手法を新たに開発し、データ駆動型の研究を行い、広帯域の破壊現象を丁寧に紐解くことで、断層形状と破壊成長過程の因果関係を明らかにするなど、顕著な業績をあげてきた。

断層形状が破壊やすべりの時空間分布に与える影響は、これまで理論・シミュレーション研究によって検討されてきたが、実地震においては、非平面断層上の震源過程のイメージング自体が困難であった。受賞者は、破壊伝播やすべりの急な加減速により放射される1Hz前後の高周波地震波の強度を推定するバックプロジェクション法や、より低周波帯域において断層のすべり方向と形状の同時推定を可能にする有限断層インバージョン法の改良に携わった。それらの手法が描き出す震源像は、破壊とすべりの加減速が断層形状と相関することを示し、複雑な断層形状をもつ実際の内陸巨大地震において、断層面の屈曲や不連続が破壊を停滞させるだけでなく、時としてその進展を促し、地震を巨大化させ得ることを初めて明瞭に裏付けた。受賞者の詳細な解析結果は、後続の震源過程シミュレーション研究にとって有用なインプットとなり、地震破壊を規定するプレート境界面形状に新たな拘束を与えるなど、実地震データ解析とシミュレーション研究、テクトニクス分野の研究が相互に刺激し合う潮流を促進させている。

この他にも受賞者は、英米を中心とした国際共同研究の核を担い、国際学会・シンポジウムにおける招待講演を行うなど当該分野を牽引している。さらに、国際学会のコンビーナの歴任、震源インバージョン研究集会の立ち上げ、新たなオープンアクセス国際誌「Seismica」の運営など、関連分野のコンソーシアム形成に携わっており、今後の国際的な研究展開において受賞者の一層の貢献が期待される。

以上の理由により、受賞者の優れた業績と高い研究能力を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

2.受賞者:久保田 達矢

受賞対象研究

固体・流体地球を考慮した海底圧力データ解析による地震・津波・火山噴火現象に関する研究

受賞理由

これまで受賞者は、東北沖をはじめとする海域で発生した地震の直上の海底観測データを活用し、沈み込み帯の地震・津波の発生の物理の理解に向けて研究を進めてきた。なかでも、受賞者は、地震波から津波・地殻変動、非地震性すべりまで広帯域かつ広ダイナミックレンジに観測可能な海底圧力計に着目し、地震・津波現象に関する研究を推進してきた。例えば、2011年東北地震の震源直上の地震動と津波が重畳する海底圧力記録を、固体-流体の結合系の連続体力学理論に基づき解析することで、巨大地震断層直上の地震波形を抽出することに世界で初めて成功した。また、一般的に長周期の津波(海洋長波)を想定する海底圧力データの解析において、固体-流体の理論に基づいて短周期の津波や地震動成分まで含めた広帯域な海底圧力モデリングを実現し、沖合の地震のセントロイド位置や応力降下量を高い信頼度で推定できることを示した。さらに、断層近傍の津波記録を駆使した解析により、東北地震の発生前後の沈み込み帯の応力場変化を明らかにするとともに、東北地震の断層面上の応力変化分布を高い信頼度で推定し、同地震の最大の特徴である浅部大すべりの力学的発生機構を明らかにした。最近では、2022年1月のトンガの大規模火山噴火時に大気波動に起因して生じた、異常に高速で伝播し、継続時間のきわめて長い特異な津波の発生・成長メカニズムを世界に先駆けて提唱するなど、研究業績は多岐に渡る。

加えて、受賞者には海底観測機器の組立や設置回収の経験もある。防災科学技術研究所では、S-net観測網の基本性能評価など地震学の基盤を支える重要な貢献も果たしており、臨時観測から基盤観測の現場においても存在感を示している。

受賞者は、最新の海底観測と連続体力学の両面における知識に裏打ちされた独創的な発想により、海底圧力観測データの可能性を格段に押し広げてきた。「何が起こったか」を明らかにする運動学的地震像と「なぜ起こったか」を解き明かす力学的地震像とを強く結びつける地震学研究を指向しており、次世代の地震科学の創成を目指している。

以上の理由により、受賞者の優れた業績と高い研究能力を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

3.受賞者:溜渕 功史

受賞対象研究

地震識別手法の高度化に基づく地震動即時予測の改善と特異な地震活動の解明

受賞理由

地震多発時における震源推定の精度や確度を向上させることは、緊急地震速報や地震カタログの高度化を実現する上できわめて重要である。受賞者は、ベイズ推定に基づく新しい手法の開発によって、地震活動が活発な状態における震源推定手法の高度化を実現するとともに、それらを実際の気象庁におけるシステムに実装するなど、地震識別の高度化を基軸とした顕著な業績をあげてきた。

一般に、大地震や群発地震が発生すると、多数の震源からの地震波が同時に観測され、地震の識別が難しくなる。例えば2011年東北地方太平洋沖地震では、本震発生後に地震活動が非常に活発になり、緊急地震速報における過大な予測や手作業でのカタログ作成の遅れなどによって、早期の地震活動の把握における阻害要因となっていた。受賞者は、この課題を解決する二つの震源推定手法(IPF法:Integrated Particle Filter法、PF法:Phase combination Forward search法)を開発した。IPF法はベイズ推定に基づく粒子フィルタを活用した震源推定手法であり、各種観測データの統合解析と震源の不確定性を考慮した地震識別の高度化を実現した。また、PF法は同様の考え方を微小地震カタログに応用した手法であり、地震多発時でも高精度な震源の自動決定を実現した。開発した手法のうちのIPF法は気象庁の緊急地震速報へ、PF法は一元化震源カタログの生成にそれぞれ実装・活用されるなど、その社会的インパクトはきわめて大きい。

この他にも受賞者は、海底地震観測網においてノイズが大きく、微小地震活動の解析が難しい問題を、機械学習を用いたノイズ誤検知低減手法の開発によって解決し、スロー地震と同じ深さ10~20kmで発生する、前震活動が発生しやすい特異な微小地震活動領域を同定した。また海底地震観測網を用いて浅部微動活動を詳細に調べ、浅部微動が地震動や潮汐に敏感に反応する様子や、浅部微動のエネルギーレートの空間分布はプレート境界浅部の応力不均質によく対応していることを明らかにするなど、地震識別を高度化しつつ、それにより実現した地震活動の精緻な解析を通して地球科学分野の新たな知見の発見につなげている。

以上の理由により、受賞の優れた業績と高い研究能力を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

技術開発賞

推薦なし

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