特別シンポジウム 「等身大の地震学」をどう防災に役立てるのか?―確率論的地震ハザード評価とシナリオ型地震被害想定とその利活用―Event

開催概要

日時

2022年12月24日(土)13:00~15:30

場所

オンライン(Zoomウェビナー)

主催

公益社団法人日本地震学会

協賛

公益社団法人日本地震工学会

企画

地震学を社会に伝える連絡会議 特別シンポジウム企画運営WG

申込方法

事前申込制。
申し込みフォームに必要事項を入力してください。

申し込みフォーム

*本シンポジウムは、地震学会会員、および、地震や防災の基礎知識を有する専門家に向けた内容ですが、非会員の方も聴講いただけます。専門的な内容や議論となる場合がありますが、ご了承ください。

*申し込み等でご提供いただいた個人情報は特別シンポジウムに関わる事務にのみ使用し、日本地震学会のプライバシーポリシーに基づいて取扱います。

参加費

無料

プログラム

会長挨拶 小原 一成
(東京大学 地震研究所)
趣旨説明「『等身大の地震学』をどう防災に役立てるのか?」 久田 嘉章
(工学院大学 建築学部)
講演1「地震・津波ハザード評価と地震・津波被害想定の現状と課題-ハザードと被害の両方を確率論的に評価する必要性と現状-」 平田 直
(東京大学名誉教授)
講演2「地震・津波ハザード情報とその利活用」 藤原 広行
(防災科学技術研究所
マルチハザードリスク評価研究部門)
講演3「地震・津波ハザード情報とリスクコミュニケーション」 矢守 克也
(京都大学 防災研究所)
ディスカッション

開催趣旨

日本地震学会「地震学を社会に伝える連絡会議」では、地震学の現状(等身大の地震学)を社会に伝えると共に、社会からの地震学への要請を受け止めて学会の今後の活動にも役立てる活動を行っています。

2022年度は第1回特別シンポジウム「大地震発生!「1週間程度は注意」の次は?-後発地震と臨時情報-」を7月にオンラインで開催し、200名を超える方々に参加頂き、多数の貴重な意見を頂きました。そこでは「地震観測システムが整備されて予測理論も進んでいるが、後発地震や臨時情報に十分に活用されていない」、「地震発生後に適切な対応を行うためには平時における対策や取り組みが重要」、「現在の「等身大の地震学」である確率論的地震ハザード評価は一般市民には理解されていない」などご意見を頂きました。また国や自治体で実施している最大級地震によるシナリオ型被害想定が「30年70%の発生確率」などの情報と混在して伝わり、市民や地域が行える適切な対策を妨げているのではないか、などが議論されました。

そこで今回のシンポジウムでは「等身大の地震学をどう防災に役立てるのか?」をテーマとして企画しました。あらためて不確実性を伴う地震・津波ハザード情報や被害想定の現状を確認し、そのハザード・リスク情報をどうすれば自治体、メディア、一般市民に理解いただき、今後の防災対策に役立てるべきか、などを考える機会にしたいと考えています。

講演概要

地震・津波ハザード評価と地震・津波被害想定の現状と課題 -ハザードと被害の両方を確率論的に評価する必要性と現状-(平田 直、東京大学名誉教授)

地震による強い揺れや高い津波に対する適切な対応が行われないと、社会は大きな損失を被る。そのために、強い揺れと高い津波は、社会の「リスク(危険性)」になっている。ここで、「リスク(危険性)」とは「不確実性」である。もし、揺れの強さが予め分かっていたら、それに耐えられる建物・構造物を作れば人的な損害はない。確実に発生する高い津波には、それに応じた防波堤を作るか、津波浸水域を立ち入り禁止にすれば、人的な被害はない。しかし、滅多に発生しない強い揺れに耐えられる建物を作る経済的な「損失」、滅多に発生しない浸水域を使用禁止にする社会的な「損失」が発生する。つまり、揺れが大きいことが「リスク」ではなく、揺れの大きさが不確実であることがリスクである。

このリスクを「回避」するために、揺れや津波高の「不確実性の度合い」を評価して、それに応じた損害を評価して、適切な「投資」を行う必要がある。不確実性の一部は、確率論的に評価できる。不確実性は、事象の発生確率分布を評価することで可能である。揺れのリスクは、揺れの期待値の大きさではなく、揺れの分布のばらつき(分散)である。

不確実性には、偶然的不確実性(aleatory uncertainty)と認識論的不確実性(epistemic uncertainty)が知られている。「リスクとは不確定なことについて確率的に計測できるもの」という経済学のある分野での定義がある。この考えに基づくと、「認識論的な不確実性」の評価は難しいかもしれない。具体例に基づいて議論する。

地震・津波ハザード情報とその利活用(藤原 広行、防災科学技術研究所マルチハザードリスク評価研究部門)

地震動や津波の予測における不確実性を定量的に評価するための技術的枠組みとして有力と考えられているのが確率論的ハザード評価である。確率論的ハザード評価には、2つの段階がある。第1段階は、地震の発生そのものに関する予測であり、第2段階は、地震が発生したという条件の下での、ある地点の地震動や津波の予測である。これら予測における不確実さは、自然現象そのものに起因する偶然的なばらつきと人間の側の認識不足に起因する認識論的不確実性の2つに分類される場合がある。地震・津波ハザード情報の利活用においては、性質の異なる2つのタイプの不確実さを適切に考慮することが重要となる。特に、後者の認識論的な不確実性の取り扱いは確率論的なハザード評価における大きな課題となっている。巨大災害を引き起こすごくまれな自然現象の多くは、専門家の中でも解釈に違いがあり意見が対立するなど体系的な整備が完了していない研究途上の不確実性を内包する専門知をさらに外挿することではじめてとらえられるような対象である。このため、地震や津波対策に関する意思決定では、不確実さの考慮が本質的に重要となる。

これら課題について、米国SSHACの検討事例、日本の地震保険、南海トラフの地震・津波対策におけるハザード情報の活用事例など紹介し議論する。

地震・津波ハザード情報とリスクコミュニケーション(矢守 克也、京都大学防災研究所)

不確実性の高いハザード情報を住民・自治体における実効性の高い対策・行動につなげるためには、「イチからニへ」、「大は小を兼ねない」、「インとアウト」、この3つの原則が重要である。目下、現場では、最大クラスの想定「一本だけ」にとらわれた取り組みが支配的であるが、この状況を、確率論的ハザード評価に関する十全な理解を伴った取り組みに一気に置き換えることは現実的には難しい。そこで、「イチ」(最大クラス)とは異なる別の想定を並置して「ニ」を実現することが、まずは有用である。その際、高台まで地上を無理して遠距離避難する人びとがそれほど大きくはない津波に巻き込まれるなど、「大は小を兼ねない」も重要な考慮要素となる。要するに、ひとまず、あるハザード情報へ「イン」(コミット)する心理的状態と、それを「可能だが必然ではない」ものとして、そこから「アウト」する心理的状態、この両方を促進するリスクコミュニケーションが、「想定外」に対抗するコミュニケーションスタイルとして要請される。そのための試みとして、訓練支援アプリ「逃げトレ」によって収集した避難行動データを分析するシステム「逃げトレView」や、臨時情報発表時に住民等が直面する「究極の選択」を素材にしたビデオ教材「どうする私?」について紹介する。さらに、南海トラフ地震防災対策推進地域に指定されている自治体を対象に今年実施した、臨時情報に対する対応に関する大規模な質問紙調査(470自治体より回答)の結果についても報告する。

連絡・問い合わせ先

日本地震学会事務局
TEL:048-782-9243
E-mail:zisin@tokyo.email.ne.jp

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