2022年7月23日(土)13:00~15:30
オンライン(Zoomウェビナーでの開催を予定)
公益社団法人日本地震学会
地震学を社会に伝える連絡会議 特別シンポジウム企画運営WG
事前申込制。
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*本シンポジウムは、地震学会会員、および、地震や防災の基礎知識を有する専門家に向けた内容ですが、非会員の方も聴講いただけます。専門的な内容や議論となる場合がありますが、ご了承ください。
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無料
会長挨拶 | 小原 一成 (東京大学地震研究所) |
講演「情報の背景について」 | 山岡 耕春 (名古屋大学環境学研究科) |
講演「『1週間程度』その居心地の悪さ」 | 谷原 和憲 (日本テレビ) |
講演「大きな地震連鎖の確率とシナリオをどう求める」 | 尾形 良彦 (統計数理研究所) |
講演「プレート境界の現状把握と推移予測研究の現状と課題:予測情報活用の仕方のパラダイムシフトを踏まえて」 | 堀 高峰 (海洋研究開発機構) |
ディスカッション |
現在、気象庁は、大きな地震が発生したときに、後発地震(余震)に関する注意を促している。多くの場合、後発地震は最初の地震よりもマグニチュードは小さいが、ある確率で後発地震のほうがマグニチュードが大きくなる場合がある。2016年熊本地震では被害をもたらした地震(Mj6.3)の28時間後にMj7.3の地震が発生した。さらに、2011年東北地方太平洋沖地震の2日前にMj7.5の地震が発生している。その一方、後発地震のマグニチュードが小さくても、場所によっては最初の地震よりも大きな揺れに見舞われることがある。2011年東北地方太平洋沖地震でも、地域によっては本震よりも大きな被害を生じる余震が発生したり、震源域から遠く離れた地域での被害 をもたらす誘発地震(2011年長野県北部地震、Mj6.2など)が発生した。また、10年以上経過した現在でも被害地震が発生している(2021年福島県沖の地震、Mj7.3など)。
このようなことを踏まえ、気象庁は後発地震に関する注意の呼びかけを行い、さらに南海トラフ沿いで、M7クラスの地震が発生した際には臨時情報(巨大地震注意)を、M8クラスの地震が発生した場合には臨時情報(巨大地震警戒)を発表し、1~2週間程度の注意や警戒を求めている。しかしながら、いずれの場合も普段よりも大地震発生の確率は高まっているものの、絶対的な地震発生確率は低い。それでも、甚大な被害が想定される南海トラフ沿いの巨大地震に加え、いわゆる日本海溝・千島海溝域の巨大地震についても政府は注意情報を出す方向で検討をしている。
このような地震発生と注意の呼びかけの状況を踏まえて、大規模な被害地震が発生した場合、その後の社会への注意の促し方は、今後どのように進んで(変化して)いくべきであろうか。またその一方で、観測技術は日々進歩し、地殻変動や地震活動に加え、プレート境界ではスロースリップの観測もリアルタイムで行われる時代である。これらの情報を取り込んで、「少し先の予測」はできるのだろうか? 将来発生する地震(ハザードを含む)の情報提供の現状を整理するとともに、社会に対して情報を伝える観点から、今後の方向性について議論をしたい。
最近の地震情報に接する時、その情報が「科学的には正直」に書かれているあまり、受け手は戸惑うことが多い。例えば後発地震に関する情報。「今後1週間程度、同程度の地震に注意」と書かれ、そこには「本震・余震型か前震・本震型か、現時点では『わからない』ので…」という発信者のお断りが込められているが、受け手は「いつも同じような言い方ばかり」と受け止めがちだ。また南海トラフ地震の臨時情報にしても、最初の地震があって、次の地震が起きる可能性は「相対的に高まっている」と言うのに、求められる行動は日常通り、「備えの再点検」で良いというのが腑に落ちない。次の地震が起きるのがいつなのか? すぐなのか? 1週間後か? 1か月後か? 1年後か? は『わからない』…という科学の限界は明示されていないからだ。
最近の地震情報は『これ以上はわからない』を前提にした新しいタイプの防災情報と言えるが、情報の伝え方・受け止め方には“新たな作法”が必要だ。
わが国では、1995年阪神淡路震災以来、余震の発生確率が発信されてきたが、2016年の熊本地震の事態を受けて、数値的な予測の公表を控えている。しかし、熊本地震のケースは確率的に異例ではない。しかも本震と同規模またはそれ以上の地震は本震から数日以内に起こり易い。そのため、大きな地震の直後の検出能力の低下による余震データの欠損を統計的に克服し、直後からの確率予測を開始できることが望ましい。
また事後の中・長期予測ではETASモデルを活用することが考えられるが、地震学的知見による想定シナリオや多様な地震活動の個性に対応して、時空間的な予測を実施することが求められる。例えばカリフォルニアでは、断層区分モデル群に基づく確率的シミュレーション法(UCERF3-ETAS)が提案され、研究されている。本講演では、さらに昭和期の南海トラフ連鎖地震前後の地震活動のいくつかの特徴を議論し、連鎖地震の蓋然性をリアルタイムで追求できる時空間予測の課題を展望したい。
南海トラフ地震発生の可能性が相対的に高まったという予測情報を何のために使うのがより防災につながるだろうか? 国の防災対応ガイドラインでは、予測情報を受けた対策と並んで、突発地震への備えとして事前対策が重要とされ、後発地震への備えにもなるとされている。だとすれば、予測情報が事前対策の促進につながるような社会の仕組み作りができれば、あるいは、事前対策の促進につながるような予測情報を出すことができれば、予測情報を出すたびに、大地震への備えが確実にレベルアップしていくことになる。そこを目標として設定した場合、プレート境界の固着・すべりの時空間変化の現状把握とその先の推移予測からはどのような情報を引き出すことができるか、それらの情報がどのように事前対策の促進につながると期待されるかを、研究の現状と課題とともに議論したい。
「大地震後の地震活動の見通しに関する情報のあり方」報告書(地震調査研究推進本部地震調査委員会、2016年)
https://www.jishin.go.jp/reports/research_report/yosoku_info/
南海トラフ地震対策 : 防災情報のページ(内閣府)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/
南海トラフ地震に関連する情報の種類と発表条件(気象庁)
https://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/nteq/info_criterion.html
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