2024年度Awards

受賞者:小平 秀一

授賞対象業績名

先駆的な大規模稠密地下構造探査による沈み込み帯を中心とした地球内部変動現象の解明

授賞理由

受賞者は、地下構造探査のデータの詳細な解析から構築した地下構造モデルに基づき、地震活動や、プレートの形成・移動など、地球内部で生じるさまざまな変動現象の理解、特に現象の背景にある構造的要因の解明を目指して精力的な研究を行ってきた。研究における特に評価すべき重要な点は、地球物理学から地質学・岩石学までの広い視野にわたって、鋭い洞察力にもとづき地下構造研究の成果を最大限に活用して新たな知見を創出してきたことである。さらには、地下構造探査の高度化・大規模化を世界に先駆けて実現し、特に日本における沈み込み帯域の地下構造研究を世界トップクラスの水準まで発展させた。

たとえば、深部に沈み込んだ海山の実態を観測から定量的に把握することは容易ではないが、受賞者は100台以上の海底地震計を用いた、従来よりも一桁稠密で大規模な観測を提案・実現することでこの問題を見事に克服し、富士山級の海山の沈み込みや、海嶺の沈み込んだ先の高間隙水圧の存在をイメージングし、それらが沈み込みプレート境界の巨大地震発生過程やスロースリップに与える影響を考察した。これらの研究は世界の沈み込み帯で類似の観測研究に繋がり、国際的にも大きな影響を与えた先駆的な取り組みである。また、非常に複雑で不均質な様相を呈するスロー地震分布を決定付ける要因を調べるために、南海トラフ全域のプレート境界断層を三次元的に把握するという世界的にも類をみない大きなプロジェクトを立ち上げ、実観測に基づき沈み込む海山群などの実態からプレート境界断層の固着・すべりの決定要因を明らかにする研究を進めるなど、受賞者はいまだに研究の歩みを止めていない。

2011年東北地方太平洋沖地震に際しては、地震観測に加えて地形や地下構造の探査を機動的に実施し、海溝軸近傍で巨大な滑りが発生していたことを海底地形や地下構造の研究に基づいて解明した。さらに、同地域においてIODP掘削を提案・実現し、地震断層の実態を明らかにするなど多数の成果につなげた。これらの成果を受けて、同地震後の時空間変化を捉えるべく、新たな掘削研究を世界中の研究者を率いて2024年秋に実施する予定であり、受賞者はこの分野におけるトップレベルの研究者として世界を牽引し続けている。

以上に代表されるさまざまな業績から、受賞者はAGUの Fellowに選出されているのみならず、Beno Gutenberg Lectureを行う栄誉を1996年の金森氏、2015年の小原氏に続いて2017年に受けているなど、国際的にも高く評価されていることから、2024年度日本地震学会賞を授賞する。

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