2026年度受賞者Awards

受賞者:小野寺 圭祐

授賞対象研究

多彩な研究アプローチで拓く惑星地震学

授賞理由

小野寺圭祐氏は、月・火星・小惑星を対象とした惑星地震学において、観測データ解析、数値シミュレーション、実験、さらには試料計測までを自在に組み合わせる独創的な研究を展開し、比較惑星学・地震学双方の発展に顕著な貢献を果たしてきた若手研究者である。

小野寺氏の代表的成果の一つは、アポロ短周期地震計データの包括的な再解析である。半世紀以上未解析のまま残されていた短周期データに独自の解析手法を適用し、22,000件を超える未発見イベントを発見するとともに、浅発月震の数を大幅に増やし、月の地震活動度や地域性に関する従来の理解を大きく変えた。限られた観測網とノイズが卓越するデータから地震シグナルを抽出する能力は、小野寺氏の観測・解析技術の高さを示している。

また、火星では InSightが観測した火震の長周期表面波コーダを解析し、火星内部の散乱特性・内部減衰特性を初めて定量的に評価することに成功した。さらに、大気渦と地盤応答の同時解析を通じて、火星の大気現象と地下構造を統合的に理解する新しい地震研究を推進している。これらは、地震波伝播理論と観測データ解析を高度に融合させた成果であり、地球で培われた地震学を他惑星へ展開した先駆的研究として高く評価される。

さらに小野寺氏は、解析研究にとどまらず、小惑星リュウグウ帰還試料の弾性波速度を世界に先駆けて測定し、その形成・進化過程に新たな制約を与える成果を挙げている。また、Apollo 17重力計データを擬似地震計として活用する新たな解析法を提案するなど、既存の観測資源から最大限の科学成果を引き出す独創性にも優れている。

小野寺氏の研究の特筆すべき点は、既存の解析法に依存することなく、観測・理論・数値計算・実験を柔軟に組み合わせ、自ら必要な手法を構築して未知の問題へ挑戦する姿勢にある。その成果は月・火星・小惑星という個別の天体の理解にとどまらず、地震波散乱、減衰、地下構造推定、惑星内部進化など、地震学・地球惑星科学全体へ新たな視点を提供している。

現在も Dragonfly計画をはじめとする国際惑星探査計画において重要な役割を担い、日仏ダブルディグリープログラムを通じて培われた国際共同研究ネットワークを生かしながら、比較惑星地震学の発展を牽引している。今後も地震学の枠組みを大きく拡張し、新たな学術分野を切り拓くことが大いに期待される研究者である。

以上の理由により、小野寺圭祐氏の優れた研究業績と高い独創性を評価し、今後の地震学へのさらなる貢献を期待して、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

受賞者:髙野 智也

授賞対象研究

連続地震波形記録解析に基づく地球表層現象と固体地球の力学的結合に関する研究

授賞理由

髙野智也氏は、連続地震波形記録の解析を通して、火山や地殻流体のみならず、潮汐や海洋、雪氷圏などの、断層破壊を起源としない地球表層現象と固体地球との力学的相互作用の研究を強力に推し進めてきた。その研究は、地震波干渉法に基づく地殻構造の状態把握に関する推定と、近年の全球的に伝播する長周期震動現象の発見ならびにその発生機構の解明に分類される。

地震波干渉法に基づく研究では、潮汐や火山現象に対する地殻の地震波速度変化の検出に注目し、その応答と感度から地球内部の状態を推定する研究を世界に先駆けて進めてきた。膨大な連続波形記録を解析するだけではなく、非線形弾性理論に基づく速度変化の探索や、状態空間モデルに基づく潮汐応答感度推定手法の導入、地震波速度変化のより精緻な推定法の提案など、対象とする物理量に応じた解析手法を開発することの重要性を意識しながら、新しい地球内部構造の視点を提案してきたことは特筆に値する。これらの研究を通じて、地震波速度時間変化を単なる観測量ではなく地殻の状態を反映する指標として解釈する新たなモニタリングの可能性を提示してきた。

また、全球の地震観測網記録のコヒーレンス解析に基づき、断層破壊によらない未知の長周期震動現象やその季節変動の発見を報告している。発見された震動の起源の検討から、海底火山のハーモニック微動、火山地域外における流体充填クラックの振動現象、および氷河域の海洋-雪氷圏-固体地球の力学的結合に起因する微動など、多様な成果へと発展している。とりわけ、海底火山のハーモニック微動は海域の火山モニタリングにつながる可能性を示すものであり、断層破壊以外に起因する地球表層現象の監視に地震観測記録が活用する具体例を示しながら、新しい研究領域を切り拓いていると言える。

加えて、当該分野で世界の最先端を走るグルノーブル・アルプ大学で共同研究を行うなど、国際的な研究ネットワークの中で精力的に研究領域を広げている。このような基礎研究を強力に押し進める一方、防災科学技術研究所にて基盤的火山観測網の設置運営にも携わるなど、地震学分野の将来を観測から解析まで幅広く支える極めて貴重な人材といえる。

以上の理由により、髙野智也氏のこれまでの優れた業績と高い研究能力を高く評価するとともに、広範な地震学分野を支える研究者としての将来と地震学分野への貢献に大いに期待を込めて、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

受賞者:馬場 慧

授賞対象研究

多様な地震観測データに基づく沈み込み帯におけるスロー地震の活動特性の解明

授賞理由

馬場慧氏は、海陸の広帯域地震観測網、機動的海底地震観測、および海底光ファイバーを用いた分布型音響センシング(DAS)観測を組み合わせ、沈み込み帯におけるスロー地震の検出・定量化と、その発生場の理解を大きく進展させてきた若手研究者である。

馬場氏はまず、三次元速度構造モデルに基づく合成理論波形をテンプレートとしたmatched-filter手法により、北海道・東北沖、すなわち日本海溝・千島海溝南部沿いの超低周波地震活動を長期かつ網羅的に検出した。これにより、2003年十勝沖地震の余効すべりと十勝沖の超低周波地震活動の時空間的対応、および2011年東北地方太平洋沖地震後に大すべり域外で活動が活発化し、大すべり域内またはその近傍で活動が低調化したことを明らかにした。さらに、日本周辺の沈み込み帯を比較し、浅部スロー地震活動の空間不均質性がプレート間固着の強弱や低速度異常と対応することを示し、スロー地震をプレート境界のすべり挙動・摩擦特性を把握する指標として位置づけた。

また、同手法をコスタリカ沈み込み帯にも展開し、ニコヤ半島沖の海溝軸近傍で浅部超低周波地震を検出・位置決定するとともに、それに伴う低周波微動信号を確認した。検出された浅部スロー地震活動はスロースリップの大すべり域と対応し、通常の大地震域とは空間的に棲み分けること、また規格化エネルギーが南海トラフ浅部スロー地震と同程度であることを示した。日向灘では、陸上・海底観測を組み合わせ、テクトニック微動のエネルギー、超低周波地震のモーメント、および震源移動速度が沈み込む九州・パラオ海嶺周辺で系統的に変化することを明らかにし、構造不均質と震源物理を結びつけてスロー地震活動を解釈した。

さらに、2024年能登半島地震後には、室戸岬沖のDONET2と分布型音響センシング(DAS)を併用し、震源から約600 km離れた領域で、本震後約3-12時間に発生した浅部微動活動を捉えた。大地震後に一部のDONET広帯域地震計が不安定となる中でDASが安定して観測を継続できることを示した点は、海域における微弱な浅部スロー地震活動の高密度・長期モニタリングに新たな可能性を開くものである。

観測、解析、物理解釈を一貫して進める馬場慧氏の研究能力は極めて高く、今後の観測地震学およびスロー地震研究を牽引することが期待される。

以上の理由により、馬場慧氏のこれまでの優れた業績と高い研究能力を高く評価し、その将来性と地震学への貢献に期待を込めて、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

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