著者名:Ryosuke Ando, Yo Fukushima, Keisuke Yoshida, Kazutoshi Imanishi
掲載誌名等:Earth, Planets and Space 77, 53 (2025)
DOI:10.1186/s40623-025-02187-9
令和6年能登半島地震では、既知の海底活断層の破壊によって能登半島北岸が隆起したことが合成開口レーダや海底面の調査によって明らかになった。しかし、場所による隆起量の顕著な違いや、地震波の解析から明らかになっていた破壊過程中盤での断層すべりの急加速など、地震災害の程度にも関係する複雑な現象が生じた原因は未解明であった。本論文は、令和6年能登半島地震の震源断層を対象に、本震前に得られていた非平面の三次元的な断層形状と高精度な応力場を考慮した動的破壊シミュレーションを行い、これらの要因を解明したものである。
本論文では、動的破壊シミュレーションによって断層破壊の開始・成長・停止を再現することに成功し、断層が大きく屈曲している場所で大きなすべりと断層破壊の加速が生じたこと、すなわち、断層の三次元形状が震源過程に大きく影響することを明らかにした。また、観測された地震動波形の特徴も、シミュレーション結果によって良好に再現された。さらに、地震時地殻変動もシミュレーションによって面的に再現され、得られた隆起量の空間変化の特徴が観測結果とよく一致していることが確認された。これまでにも大地震を対象として断層形状や応力場を考慮した動的破壊シミュレーションは行われてきたが、地震時地殻変動と地震動波形の両方の観測結果を良好に再現した例はごくわずかであった。
本論文で示された成果は、高精度な本震の観測体系に加えて、通常の地震活動や応力場推定、詳細な活断層トレースデータの蓄積、そして筆頭著者がこれまでに開発してきた非平面な断層形状に対応可能な動的破壊シミュレーションコードの開発と計算の高速化に基づくものであり、動的破壊シミュレーションを観測事実と対比可能な定量的な手法へと発展させた革新的な研究成果である。また、不均一な断層すべり分布や強震動の特徴は、従来、アスペリティの分布や摩擦特性の空間変化など、断層面の不均質性によって説明されることが一般的であった。本研究による断層の幾何学的要因が震源過程を大きく左右するという知見は、震源過程の理解に新たな視点を提示するものである。
本論文には、非平面を考慮しない場合の断層破壊過程や、断層の傾斜角がわずか数度異なるだけで破壊パターンが大きく変化することなど、同様の研究を目指す研究者にとって示唆に富む内容も併せて報告されている。また、断層の三次元形状や高精度な応力場は、地震発生前に一定程度把握することが可能な情報である。したがって、これらの情報を取り入れた動的破壊シミュレーションにより、当該断層で発生する大地震の破壊様式や地殻変動、強震動の特徴を事前に評価できる可能性がある。この点は、防災・減災への応用につながる重要な事柄であり、社会的波及効果も大きい。さらに、本研究の成果によって、地形学や地質学など隣接分野において断層研究を進めている研究者との議論の活性化を促すことも期待され、学術的・社会的意義の両面で卓越した論文と評価される。
以上の理由により、本論文を2026年度日本地震学会論文賞授賞論文とする。