2021年度授賞論文Awards

受賞対象論文:Effects of frictional properties of quartz and feldspar in the crust on the depth extent of the seismogenic zone

著者:Koji Masuda(増田 幸治),Takashi Arai(新井 崇史),and Miki Takahashi(高橋 美紀)
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science(2019)6:50
DOI:10.1186/s40645-019-0299-5

受賞理由

本論文は、地殻を構成する代表的な鉱物である石英と長石の粉体を用いて、地震発生層と同様の温度圧力環境下、水がある場合と無い場合で摩擦すべり実験を行い、摩擦係数の滑り速度依存性が温度や水の存在によりどのように変化するかを調べた。摩擦係数の滑り速度依存性は、その値が正であれば滑りを減速させ、負であれば滑りを加速させることを示す特性であり、地震発生層の範囲を規定する要因と考えられている。摩擦すべり実験は、室温から600℃までの温度範囲で、水の存在しない場合(Dry)と存在する場合(Wet)の合計30の条件下で実施された。その結果、水の存在しない場合は、すべての温度範囲で、石英・長石とも摩擦の速度依存性が正となり、安定すべりの状態が続き地震すべりへ発展しないこと、一方、水の存在する場合は、石英・長石とも摩擦の速度依存性が負になり地震すべりが発生する温度範囲が存在するが、長石の方が石英よりも、その温度範囲が広いということがわかった。また、実験後の試料の電子顕微鏡観察から、水がある場合の実験後の鉱物粒子の表面が丸みを帯びる様子が観察され、圧力溶解が発生していたことが示唆された。

これらの結果は、長石の摩擦特性が地震発生領域の深部境界を制限するのに主要な役割をはたしている可能性を示しており、高温高圧環境下における摩擦特性に対する水の影響を説明するメカニズムも示唆したということも合わせ非常に重要である。また、本論文の特筆すべき点は、従来の高温高圧下の摩擦滑り実験では主に試料として地殻構成岩石の花こう岩が使われてきたのに対し、よりミクロで本質的なメカニズムを解明するために鉱物である石英と長石を用いたことである。特に、長石の摩擦特性を調べた研究はこれまでほとんどない中、長石が不安定すべりを起こす温度範囲が石英のそれとは大きく異なるという本論文のもたらした知見は重要性が高い。現在、地震や地殻変動観測の進展により地震すべりと非地震性すべりの時空間的な分布が得られるようになったが、そのメカニズムを理解する上でも本論文の知見は有用であると考えられる。

以上の理由により、本論文を2021年度日本地震学会論文賞受賞論文とする。

受賞対象論文:三重地震面再訪 ——プレート収束の新しい描像としての“超沈み込み”——

著者:瀬野 徹三
掲載誌:地震第2輯, 73巻, 1-25, 2020
DOI:10.4294/zisin.2019-4

受賞理由

沈み込む海洋プレート(スラブ)において、沈み込みに沿ってスラブ内地震が二重面をなす場所があり、二重地震面として知られている。二重地震面は通常、稍深発地震の深さに存在するが、二重面のさらに上部でスラスト型の地震面もみられる領域が存在し、“三重”地震面を形成することがこれまで報告されている。このような三重地震面の成因の理解は、沈み込み帯における地震発生機構の理解の根幹をなすと考えられる。

本論文では、三重地震面が存在するとされていた宮城沖及び茨城県南西部に対し、三重地震面最上面のスラスト型地震の発震機構と、上盤側及び下盤側のプレートの相対運動を比較した。その結果から、最上面のスラスト型地震はプレート間地震ではなく、スラブ最上部の地殻内地震であり、プレート相対運動そのものを担っているのではないことを提言した。さらに、従来地震性のアスペリティが存在すると考えられていた深部プレート境界でのすべりはほとんど非地震性である可能性を指摘した。この新しい描像に基づけば、M7地震の震源領域がアスペリティでありながら2011年東北地方太平洋沖地震の前後にゆっくり滑り、かつ地震時に短周期地震波を発生したという奇妙な現象や、さらに1923年関東地震で埼玉県東部から茨城県南西部で震度が異常に大きい理由が説明できることを指摘した。

三重地震面が確認されている沈み込み帯の中には、伊豆-小笠原弧や高剪断応力を持つ東北日本沖のように衝突帯の性質を有する場所が存在する。本論文では、このような衝突の性質と三重地震面の両者を兼ね備えたプレート収束を“超沈み込み”と命名した。超沈み込み帯では、あたかも沈み込むスラブ地殻をプレート境界帯としてプレート相対運動を消費していると提言し、沈み込み帯での地震発生の理解には、プレート境界でのすべりやその不足という概念を超えた概念が必要であると指摘した。

このように本論文は、沈み込み帯における地震発生機構の既存の概念に変革をせまるような、新たな描像を提言した。新たな描像は地震学会において新たな議論を巻き起こし、この分野のさらなる進展に貢献することが期待でき、この意味で重要な成果であると認定できる。

以上の理由から、本論文を2021年度日本地震学会論文賞受賞論文とする。

受賞対象論文:1872年浜田地震による石見畳ヶ浦の隆起

著者:宍倉 正展, 行谷 佑一, 前杢 英明, 越後 智雄
掲載誌:地震2輯, 73巻, 159-177, 2020
DOI:10.4294/zisin.2020-4

受賞理由

この論文が対象とする1872年(明治5年)の浜田地震(M7.1)は、日本の測器を用いた地震観測開始前の発生であり、その直後の県による報告に続く詳細な地震と被害の調査報告は、地震後40年を経た地元住民への聞き取り調査によるものである。そのため、震源断層や地殻変動について不明な点も残っていた。

例えば、島根県・石見畳ヶ浦には、現在離水した波食棚地形が広がっている。この地形は、1932年(昭和7年)の史跡名勝天然記念物指定において「明治五年二月所謂濱田地震ノ際ニ隆起シテ水面上ニ現ハレタルモノニシテ有史後ノ隆起海床トシテ模範的ノモノナリ」と記載され、地震による地殻変動として0.6~1.8mの隆起が推定されている。しかし、江戸時代の同地域の絵図にすでに波食棚が描かれていることから、隆起の有無や隆起量の推定に異論もあった。

そこで、本論文では、石見畳ヶ浦の離水波食棚の成因や形成時期の推定は震源断層の解明に重要であるとの立場で、隆起の痕跡として潮間帯に生息し過去の汀線を示すヤッコカンザシの遺骸群集に着目した。その分布高度を、UAVによる写真測量で新たに取得した詳細な地形データや、採取したヤッコカンザシの年代測定結果とあわせて解釈することで、石見畳ヶ浦の地殻変動を総合的に議論している。その際には、過去の海水準の高度変化を把握するために、現生の生物群集についても調査して潮位と比較して生物群集分布域の標高データの精度を確認するなど、丁寧な分析作業と分かりやすい説明がなされている。年代測定には海洋リザーバー効果の補正も考慮し、成果としてまとめられた遺骸群集の年代-高度ダイアグラムから浜田地震時の隆起量が推定された。このとき、江戸時代の絵図に示されていた離水波食棚地形については、新規取得の詳細な地形データから、石見畳ヶ浦の地殻変動が南への傾動運動を伴ったという解釈で矛盾なく説明可能との新たな説を提案した。

本論文は、生物遺骸群集の分布高度と年代測定結果をそれぞれ詳細にまとめて、さらに、石見畳ヶ浦内の南北間の差異を議論できる高精度な地形データを加えて検討することで、江戸時代の文献と地震後の聞き取り調査で整合していなかった浜田地震の地殻変動に関して統一的な解釈を新たに提案している。課題の設定からその解決のために取得したデータの分析と解釈、考察の明快な論理構成も高く評価できる。近代観測以前の歴史地震に対して、地形・地質学的データの精度の向上をはかりながら歴史学的見地との総合的な解釈を進めた点は、この研究分野への模範として高く評価できる。

以上の理由から、本論文を2021年度地震学会論文賞受賞論文とする。

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