このたび「地震予知の科学」(日本地震学会地震予知検討委員会編)が、東京大学出版会から上梓されました。われわれは、この本が、「科学的な地震予知を行う上での出発点」となることを目指しています。
実は、われわれ、地震学会に所属する研究者にとって、地震予知というテーマに関わることは、それが冷静に取り扱われないという意味で想像以上のエネルギーを使わなければなりません。その結果、われわれ研究者側から見れば、すでに明らかになっていると思われることですら、一般向けに語ることをこれまでためらってきたような気がします。
しかし、この躊躇は、一般社会の地震学、地震予知への無理解や無関心、さらには非科学的な予知手法への安易な信奉について明示的に抵抗しないという負の側面をもたらしました。つまり、われわれは身近な面倒を避けることで、逆に大きな面倒を「分野」として背負い込んでしまった感があります。これは地震予知ばかりではなく、科学全体にとってもプラスとはならないのではないでしょうか。
本書「地震予知の科学」は、決して背伸びをせず、かといって過小評価もしない、すでに身近にある等身大の地震予知の現状を、一般向けにわかりやすく著しました。地震予知の可能、不可能論争や非科学的手法への言及がない分、一般社会でショッキングな手法で取り扱われる地震予知ネタを想像される方、あるいは最新知識だけを知りたいという方には、期待はずれかもしれません。しかし、地震予知は特別な科学分野ではありません。単なる一手法の1か0かの成否で決着が付くものではなく、客観的な評価を重ねることで日々進化しつつある総合科学である。これが、われわれの主張なのです。
章立ては以下のとおりです。
読者として、これから地震予知に関して学びたい学生諸子や教育関係者、マスメディアの方、あるいは地震に関心がある一般の方を想定しています。地震予知、あるいは科学の入門書として親しんでいただければうれしい限りです。
地震予知検討委員会委員 一同