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2020年度日本地震学会論文賞および若手学術奨励賞受賞者の決定について(2021年3月19日掲載)News & Topics

公益社団法人日本地震学会理事会

日本地震学会論文賞および若手学術奨励賞の受賞者選考結果について報告します。
2021年1月29日に応募を締切ったところ、論文賞10篇、若手学術奨励賞6名の推薦がありました。理事会において各賞の選考委員会を組織し、厳正なる審査の結果、2021年3月15日の2020年度第7回日本地震学会理事会において、下記のとおり論文賞3篇、若手学術奨励賞3名を決定しました。
なお、若手学術奨励賞の授賞式は2021年度定時社員総会開催に合わせて行い、論文賞の授賞式は2021年度秋季大会の場において行う予定です。

論文賞

1.受賞対象論文

角田・弥彦断層海域延長部の活動履歴─完新世における活動性と最新活動─

著者:大上 隆史,阿部 信太郎,八木 雅俊,森 宏,徳山 英一,向山 建二郎,一井 直宏
掲載誌:地震第2輯第71巻(2018)63-85頁
DOI:https://doi.org/10.4294/zisin.2017-9

受賞理由

沿岸海域における活断層は、ひとたび活動すると地震の揺れや津波によって様々な災害が想定されるため、その位置や活動性を解明することは学術的にも社会的にも重要である。特に2007年能登半島地震や同年新潟県中越沖地震の発生によって沿岸海域活断層の評価が喫緊の課題として認識され、以来、日本列島の各海域で重点的に調査が進められている。その1つである角田・弥彦断層の海域延長部について、本研究は様々な手法を駆使し、活断層の評価において必要な情報を精度良く取得することに成功した。

ひずみ集中帯に位置する角田・弥彦断層は、長岡平野西縁断層帯の北部区間をなし、高い活動度を示す逆断層として知られている。この断層が海域に延長することは海底地形から推定されていたが、その正確な位置・形状や活動履歴については不明であった。一般に海域活断層の調査は、陸域活断層のように地形や地層を直接的に観察することができず、音波探査やコアリングなどの間接的な手法で探っていくため、活断層評価に必要なパラメータを精度良く取得するには、より綿密な調査計画とデータの詳細な解析が求められる。本研究は現状で考えうる調査・解析手法を網羅し、それらを着実に実行している。まず総延長166kmに渡る高分解能な音波探査を実施することで、断層の分布を明確に示した。その中から良好な音波探査断面が得られた測線を選定し、2-10kHzの高周波音波探査を行うことで50cm以下の層構造を捉え、海底下50m程度までの精密な地下構造断面を得ることに成功した。

次に断層を挟んでバイブロコアリングを実施し、試料を採取するとともに、コア長約50mの既存の海上ボーリング試料も用い、探査断面と堆積物との対比によって、同時間面を明確にした。そして多数の放射性炭素(14C)年代測定によって、10.8ka以降の堆積速度を明らかにした上で平均上下変位速度を推定し、活動頻度や最新活動時期を100年単位で絞り込むことに成功した。さらにバランス断面法によって地質構造を解釈することで、最新活動における上下変位量も推定している。

このように本論文は、角田・弥彦断層の海域延長部において、活断層評価に必要なパラメータをもれなく取得し、その活動性を明らかにした。この成果は地震調査研究推進本部の長期評価をはじめ、地震災害予測の精度向上に貢献する重要な知見であるだけでなく、今後の沿岸海域活断層調査のスタンダードを示したと言える。

以上の理由から、本論文を2020年度日本地震学会論文賞受賞論文とする。

2.受賞対象論文

1990年から2016年の間に新聞メディアで報じられた地震学ニュースの内容分析

著者:山田 耕
掲載誌:地震第2輯第71巻(2019)161-183頁
DOI:https://doi.org/10.4294/zisin.2018-2

受賞理由

地震学は、現象に伴う災害が甚大になることが多く、社会と関わりが深い学問である。このため、地震学は学界の知見を国民に積極的に還元するよう社会からの要請が強い学問分野の一つとも言える。兵庫県南部地震以降、「地震学の知見」がどのように社会に還元されてきたか、この点を日本地震学会が理解することは重要であるが、その変遷をたどるのは容易ではない。世論が地震学に抱くイメージとその変遷を理解することは、我々の成果と社会とのつながりを理解する上で不可欠である一方で、このような研究事例はそれほど多くはない。

本研究は、発行部数の多い全国紙3紙に掲載された1990年から2016年までの27年間における地震学関連記事19,360本に対して、機械学習を用いて内容を定量的に分析した。この結果、時系列変化の分析では、地震災害時だけではなく、平常時においても地震学関連情報への社会的関心が高いことが定量的に示された。また、機械学習を用いたトピック分類から、「海溝型巨大地震に対する防災計画」と「地震予知・予測」などのトピックが、他のトピックと比べて社会的関心が高いことが示された。また、2011年東北地方太平洋沖地震後であっても「地震予知・予測」に関する肯定的な記事が多いことや、地震予知の限界に理解を示しつつも期待感を持った論調が継続されていることが明らかにされた。その上で、社会が不確実性を伴う地震予測を適切に活用するためには、確率論的な地震予測に対する丁寧な説明姿勢に加え、メディアとの間を取り持つ中間組織の支援の推進が求められると結んでいる。これらの成果は、社会における地震学への見方を定量的に明確化した。

本研究は、機械学習を用いて地震学関連記事から特徴を抽出し、定量的な分析を行った。これらの成果は地震学においても学術的意義も高く、また、地震学が置かれた現状と今後どのように社会・世論と接していくべきかをデータに基づいて論じた重要な研究である。

以上の理由から、本論文を2020年度日本地震学会論文賞受賞論文とする。

3.受賞対象論文

Fault model of the 2012 doublet earthquake, near the up-dip end of the 2011 Tohoku-Oki earthquake, based on a near-field tsunami: implications for intraplate stress state

著者:Kubota, T.(久保田 達矢), Hino,R.(日野 亮太), Inazu, D.(稲津 大祐)and Suzuki, S.(鈴木 秀市)
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science(2019)6:67
DOI:https://doi.org/10.1186/s40645-019-0313-y

受賞理由

本研究は、2012年12月7日に太平洋プレートの海溝軸近傍で発生した2つの地震の詳細な震源解析に基づいて、2011年東北沖地震による海洋プレート内部の応力場変化を推定したものである。

海溝軸近傍のプレート内部では、プレートの折れ曲がりによって、浅部、深部にそれぞれ水平引張、圧縮場を生じ、その境界が中立面となる。2011年東北沖地震の発生によって、引張場で生じる正断層型の微小地震活動の下限が25kmから35kmに深化したとの報告もあったが、詳しいことはわかっていなかった。2012年12月7日に、プレートの深部(~60km)で逆断層型の地震が、浅部(~20km)で正断層型の地震がほぼ同時に発生するというM7級のイベントがあった。著者らは、この二つの地震の有限断層モデルを明らかにすることで、太平洋プレート内部の応力分布を調べることを着想した。そして、遠地地震波形と余震分布の解析に加えて、東北大学のグループが2011年以前より継続して展開してきた海底水圧計アレイが観測した震央近傍の津波波形を用いた詳細な解析により、2つのサブイベントの有限断層モデルを高い解像度で求めることに成功した。その結果、プレート浅部で生じた正断層型地震の断層面の下限が深さ35kmと推定され、東北沖地震前の正断層型地震活動の下限(25km)よりも有意に深くなっていることを示すことができた。著者らは、東北沖地震について求められた応力解放量(~20MPa)を用いてこの変化を説明することを試み、プレート形状から期待される応力プロファイルと断層強度プロファイルとの定量的な比較を行っている。その結果、通常期待される摩擦係数(0.6)の下では、観測された中立面の深化には300MPaの応力変化が必要となってうまく説明できないことがわかった。さらに著者らは、流体などの存在によりプレート表面から深さ30~35kmまでの範囲の断層の摩擦係数が0.2より小さくなっているとすることで、本研究の観測結果を東北沖地震の応力解放量と整合的に説明できることを示した。

本論文は、東北沖地震後に大地震の発生が懸念されるアウターライズ域で発生する海洋プレート内地震発生域における応力・強度状態を定量的に明らかにするとともに、沈み込む直前の海洋プレートがうける構造改変過程の解明に資する知見も提供した。いずれも沈み込み帯における地震テクトニクスの理解に重要な貢献であると言える。

以上の理由により、本論文を2020年度日本地震学会論文賞受賞論文とする。

若手学術奨励賞

1.受賞者:麻生 尚文

受賞対象研究

多角的な視点による地震波動源物理学

受賞理由

火山型深部低周波地震は、地殻下部での唯一の地震波動生成現象であり、その物理メカニズムの解明は、地殻深部からの流体供給過程等の理解に必要不可欠である。しかしながら、この現象は発見から30年以上経ってなお、地震学上の難問となっている。受賞者の地震学への最大の貢献は、同現象の物理的理解を深めたことである。受賞者は近年の稠密地震観測網のデータへ自ら開発した手法を適用し、火山型とテクトニック型との明瞭な違いを発見すると同時に、火山活動がない地域にも、火山型に類似した深部低周波地震が起きていることを発見した。提案された分類に端を発し、今ではこれらの地震は「準火山型」として当該分野に知られている。また、島根県東部で発生する深部低周波地震がCLVD型であることを突き止め、さらにその際に提示した震源型ダイアグラムについてのレビューは、複雑な震源を取り扱う研究者の道標となっている。受賞者はこれらの地震の物理的駆動力の解釈として、一連の解析結果を通しマグマ冷却による熱応力という、全く新しい先駆的なモデルを提案した。

さらに受賞者は、断層破壊力学分野において確率論的な考えの導入を進めた。地震発生に関わる物理量や物理法則をすべて厳密に決定することは不可能で、決定論的議論には限界がある。そこで運動方程式に確率論的擾乱を加える新たなモデル手法を提案した。このモデルはシンプルながら、クラック的・パルス的な通常地震のほか、スロー地震の細かな特徴まで再現することができ、断層破壊力学の常識を一変させる可能性を秘めた発展性の高い研究といえる。

この他にも受賞者は、地震波干渉法と逆伝播法を用い氷河の流動の解明に貢献した他、スロー地震データベース、点震源での破壊指向性解析、すべりインバージョン、地震波に類似した脳波のモデリングなど、対象やアプローチを問わず多岐にわたる地震波動源の物理的理解に貢献してきた。こうした多様な研究成果を生み出してきたことは、従来の固定観念にとらわれない受賞者の多角的な視点と、それを可能にする豊富な知識ならびに思考力の高さを示している。最近では、自ら構築した深部低周波地震の物理モデルの検証のため地震観測を精力的に行うなど、新たなことに挑戦し続ける姿勢も評価できる。

以上の理由により、受賞者の優れた業績と高い研究能力を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

2.受賞者:大谷 真紀子

受賞対象研究

巨大地震発生機構の理解と予測可能性に関する地震発生サイクルシミュレーション研究

受賞理由

地震が繰り返し発生する過程を計算機上で実現する地震発生サイクルシミュレーションは、実験室で再現することのできない大地震の発生に至る物理的機構を調べるための非常に強力な研究手法である。受賞者は、効率的な大規模数値計算法を開発すると共に、スロースリップから大地震までの多様なすべり現象を再現する物理モデルを構築することにより、地震発生サイクルシミュレーション研究の発展に大きく貢献した。

地震発生サイクルシミュレーションを3次元で高精度に行うためには、大量の数値計算が必要である。受賞者は、応用数理分野に端を発した密行列圧縮法であるH行列法を当該分野に導入し、計算コストを大幅に低減した高速数値計算コードの開発に成功した。これにより断層面の複雑な幾何形状ならびに摩擦不均質の取り扱いが容易となったことで、より現実的な設定を取り入れた地震発生サイクルシミュレーション研究への道が開けた。その成果を活かし、沈み込む海山列の形状の効果により摩擦すべりが安定化される機構を見出したことや、海溝等の沈み込み帯の地形が地震発生に与える影響を明らかにしたことも評価される。

さらに、巨大地震とスロースリップが自発的に発生する物理モデルを構築し、2011年東北地方太平洋沖地震を模した巨大地震発生サイクルにおいては、先行するスロースリップが必ずしも巨大地震の前兆とはならないことを示した。また、南海トラフで発生する巨大地震に対して、大きな前駆すべりが大地震をトリガーする確率を計算し、前駆すべり発生の3日後にその確率が急減するという、今後の地震防災に繋がる可能性を秘めた成果を得た。この他、周期的スロースリップが巨大地震の発生周期を引き込む同期現象を1自由度モデルで見出すなど、非線形応答に関する興味深い研究も展開している。

巨大地震発生機構の理解と予測可能性の研究は、高い数値計算能力と独創性が必要とされる地震学の重要課題であり、この分野における数値計算法の基本的枠組を提供し、さらに各種モデルを構築して巨大地震に関する様々な知見を引き出してきた受賞者の今後の一層の貢献が期待される。

以上の理由により、受賞者の優れた業績と高い研究能力を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

3.受賞者:髙木 涼太

受賞対象研究

地震・地殻変動多点連続観測データに基づく地球内部広帯域変動現象の研究

受賞理由

高密度の地震・地殻変動観測網における連続観測データは、新たな解析手法の開発を促し、新現象の発見につながるなど、地震学の発展の基礎となっている。受賞者は、地球内部に生じる様々な時空間スケールの変動現象の解明のため、多点連続観測データに基づく解析手法の開発や高度化に取り組んできた。また、それらの手法を実データへ適用し、地球内部構造の時空間変化やプレート境界におけるスロースリップイベント(SSE)の活動様式に関する卓越した業績をあげてきた。

受賞者は、新たなツールとして注目されつつあった地震波干渉法を用いて、2008年岩手・宮城内陸地震と2011年東北地方太平洋沖地震よる地殻構造変化を検出するとともに、地震波速度変化の空間分布やS波偏向異方性の時間変化などの研究分野に新たな視点を付け加えた。さらに、波動理論に基づく実体波と表面波の分離手法の開発、地震波干渉法の基礎データである脈動の指向性推定手法の開発、観測記録に含まれる微小な機器ノイズの除去手法の開発を行い、大規模な実データ解析によって手法の有用性を示した。受賞者が独創的な手法開発により地震波干渉法の適用範囲の拡大を実現してきたことは特筆すべきことであり、将来的に地球内部構造の時空間変動のより深い理解につながる極めて重要な貢献である。

受賞者は、地殻変動データ解析にも精力的に取り組み、年単位の時定数を持つ長期的SSEを系統的に検出する新たな手法を開発し、南海トラフにおける詳細な長期的SSE活動様式を解明した。長期的SSEと固着分布の空間相関性および長期的SSEの大規模な空間移動現象の発見は、プレート境界における長期的SSEの描像を新たにするとともに、巨大地震と長期的SSEとの関連性を示唆する重要な成果である。また、受賞者が明らかにしたSSE活動は、隣接領域で発生する深部低周波微動や繰り返し地震活動の時空間変化の理解にも大きな役割を果たしている。

このように、受賞者は、独自の視点や発想に基づき、理論的能力を活かした手法開発と卓抜した技術に基づく大量かつ精緻なデータ解析により、データが持つ情報を可能な限り引き出し、多点連続観測に基づく地震学の新たな発展に大きく貢献してきた。

以上の理由により、受賞者の優れた業績と高い研究能力を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

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