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2019年度日本地震学会賞、論文賞、若手学術奨励賞、技術開発賞受賞者の決定について(2020年5月1日掲載)News & Topics

公益社団法人日本地震学会理事会

 日本地震学会賞、論文賞、若手学術奨励賞、技術開発賞の受賞者選考結果について報告します。
 2020年1月31日に応募を締切ったところ、日本地震学会賞1名、論文賞9篇、若手学術奨励賞4名、技術開発賞4件の推薦がありました。理事会において各賞の選考委員会を組織し、厳正なる審査の結果、2020年4月22日の2020年度第1回日本地震学会理事会において、下記のとおり日本地震学会賞1名、論文賞3篇、若手学術奨励賞3名、技術開発賞2件の受賞を決定しました。なお、各賞の授賞式は2020年度秋季大会会場にて執り行う予定です。

日本地震学会賞

受賞者:尾形 良彦

授賞対象業績名

地震活動のETASモデルと統計地震学理論の体系化

受賞理由

 受賞者は、1970年代後半から体系的研究が始まった新たな統計地震学の創始者のひとりである。統計数理研究所での46年間の在籍中、受賞者は点過程モデルの構築とそのパラメータ推定や、地震活動の確率予測・異常検出・シミュレーションなどの地震発生モデリングに、理論と応用の両面から大きく貢献した。そのなかでも、最も特筆すべき成果はETAS(Epidemic-Type Aftershock Sequence)モデルの提案である。このモデルは、大森・宇津公式と点過程の自己励起性(Hawkes点過程)を結びつけることで、余震活動に代表される地震のクラスター性を表現したものである。この考え方の核心は、ある場所に事象(点)が発生する切迫度(発生確率の微分量)を過去の事象の発生履歴や他の情報に基づいて予測するという視点から定義された「条件付き強度関数」にある。この概念を統計地震学に取り込むことにより、地震活動のデータなどに基づく様々な地震の確率予測に新しい扉を開いた。

 例えば、 ETASモデルを地震活動データにあてはめて日本列島の常時地震活動の静穏化・活発化が客観的に判断できることを示し、地震発生の長期確率予測の可能性を示した。また、地震系列や余震系列にETASモデルをあてはめた標準的な地震活動モデルを「ものさし」として使うと大地震の中期予測や大きな余震の短期予測の手掛かりになりうることを示した。ETASモデルはこれらの他にも、異常現象と地震発生に関する因果関係の確からしさ、短期予測に重要な前震の確率予測への適用可能性など、地震発生に関する多様な確率予測研究への応用可能性を示唆しており、多くの研究者が受賞者の研究に触発されて様々な研究を活発に行っている。

 現在、このモデルは地震活動の標準的モデルとされ、地震本部の余震活動の評価手法に取り入れられているほか、確率的地震発生予測に関する国際共同研究プロジェクト(CSEP)でも用いられている。また、USGSの次世代予測モデルにも採用されるなど、世界的にも大きな影響を与えている。さらに、地震発生の物理メカニズムを理解するための地震活動に関する様々なモデルを構築・検証する多くの試みにおいても、ETASモデルは解析の基礎モデルとして用いられている。これらに加え、地震学におけるETASモデルの成功が地球科学分野以外でも着目され、山火事・犯罪・生態学における植物の侵入・ソーシャルネットワークの相互作用・ソフトウェアの更新など、多くの研究分野にまで適用されている。

 地震の発生予測に関しては、決定論的な地震予知から確率論的な地震予測へと大きな方向転換がはかられているが、受賞者の提唱したETASモデルとそれに基づく統計地震学理論の体系化は、この大きな流れを世界的にもリードする極めて重要な役割を担っていると言える。受賞者は現在でも地震学会を始めとする学術集会などで盛んに研究発表を行っているほか、地震予知連絡会の委員を務め、社会的側面からも地震予測と災害軽減に携わっている。以上のことから、2019年度日本地震学会賞を授賞する。

論文賞

1.受賞対象論文

OpenSWPC: an open-source integrated parallel simulation code for modeling seismic wave propagation in 3D heterogeneous viscoelastic media

著者:Maeda, T.(前田 拓人), S. Takemura(武村 俊介) and T. Furumura(古村 孝志)
掲載誌:Earth, Planets and Space(2017)69:102

受賞理由

 地震動は、震源断層と地下物性構造を精密にモデル化した地震波伝播シミュレーションによって再現することができる。このシミュレーションは、地震学におけるひとつの基盤ツールとして、震源過程や地球内部の不均質構造の推定、また地表での強震動予測や地震ハザード評価まで、幅広い研究分野において利用されている。それには、地下の不均質媒質を如何に現実的な3次元の実問題として適用できるかどうかが重要となってくるが、その背景には1990年代のスーパーコンピューターの導入を端緒とする計算機性能の高度化、その後の計算機の高速化及び並列化技術の飛躍的な発展があり、それと連携することによってシミュレーション技術が革新し、実用化の基盤が構築されてきた。

 本研究は、ローカルからリージョナルスケールの3次元及び2次元粘弾性媒質における地震波動伝播の大規模並列差分法計算オープンソースコード(OpenSWPC)の開発を行ったものである。このコードでは、並列効率の高い計算アルゴリズム技術が新しく導入されただけで無く、対象とする研究分野ならびに計算機における高い汎用性とそれに見合う実用性を重視した改良が図られている点においても優れている。例えば、複雑な3次元地下の速度・減衰構造や、様々な震源過程に対応し、それらのインプットファイルの設定は可視化ツールが用意されている。また、計算結果である列島を横断する3次元地震波伝播プロセスの可視化ツールも同様にセットされており、実際的な工夫が随所に見られる。これまで波動伝播シミュレーションを行っていない人も使用しはじめるケースが多く、シミュレーション研究の活性化にも寄与している。

 現在公開されているコードは、直交座標系でのリージョナルスケールを対象としたものであるが、将来的な球座標系でのグローバルスケールへの適用について、既に実現化への目処が立っていると論じられており、今後より汎用性の高い基盤ツールとして地震学に貢献することが期待できる。

 以上の理由から、本論文を2019年度日本地震学会論文賞とする。

2.受賞対象論文

Variations in precursory slip behavior resulting from frictional heterogeneity

著者:Yabe, S.(矢部 優) and S. Ide(井出 哲)
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science(2018)5:43 DOI: 10.1186/s40645-018-0201-x

受賞理由

 巨大地震の直前には、前震やスロースリップ等、多様な前駆的断層すべり現象が生じることが知られている。このような前駆的な断層すべりの挙動を理解することは、巨大地震の発生予測のためにも重要な課題である。しかし、そうした前駆的な断層すべり現象の物理メカニズムの理解は必ずしも十分ではない。

 本論文では、こうした多様な前駆的断層すべりを、従来のように巨大地震のすべり域を単一もしくは少数のアスペリティーとしてモデル化するのではなく、細かいスケールの固着部と非固着部が混在する摩擦特性が不均質な断層として表現することでモデル化できることを示した。具体的には、固着部と非固着部を速度状態依存摩擦則の速度弱化域と速度強化域として表現し、それらが交互かつ規則的に繰り返し配置される最も単純なモデルを設定し、それらに対して定常的に応力載荷を行うことによって、そのすべりの挙動を数値計算によって調べた。その結果、断層はほぼ周期的に一斉にすべり、巨大地震を引き起こす一方で、その前後で以下の特徴的な断層すべりの挙動が生じることを明らかにした。(1) 巨大地震発生後しばらくすると、固着部だけでなく非固着部も固着部に弾性的に引きずられて大きなすべり遅れを蓄積し、全体として見かけ上単一のアスペリティーとして機能する。(2) 巨大地震の前には前駆的スロースリップが確認される。固着部の強度が高い場合にはその領域は非常に狭いが、低い場合には断層面上の広い範囲に広がり、その内部に前震のような高速滑りを含むこともある。(3) 最終的な巨大地震の断層破壊は小さな固着部から開始し、大きな摩擦エネルギーを消費する非固着部を乗り越えながら拡大する。

 これらの結果は、固着部と非固着部を規則的に繰り返し配置するというきわめて単純な摩擦不均質を導入することで前駆的スロースリップや前震を説明できることを示すとともに、前駆的スロースリップの発生が固着部の強度によって特徴づけられることを示唆している。これら本論文が示す巨大地震の成長・拡大過程は、地震のスケーリングという震源物理の根本的な問題の解決に一つの方向性を示唆するものであり、その重要性はきわめて高い。

 以上の理由から、本論文を2019年度日本地震学会論文賞とする。

3.受賞対象論文

Adjoint tomography of the crust and upper mantle structure beneath the Kanto region using broadband seismograms

著者:Miyoshi, T.(三好 崇之), M. Obayashi(大林 政行), D. Peter, Y. Tono(東野 陽子) and S. Tsuboi(坪井 誠司)
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science(2017)4:29 10.1186/s40645-017-0143-8

受賞理由

 波形インバージョン法による地球内部構造の推定は、高速大容量の数値計算を必要とするため、実際の構造への適用はこれまで限定的であった。本論文は、二つのプレートが沈み込む関東地域の複雑な地殻・上部マントルに波形インバージョン法を初めて適用し、観測波形の再現性を定量的に示しつつ、得られた3次元速度構造を地学的に解釈することに成功した先駆性の高い論文である。

 本論文では、140の地震イベントに対して関東周辺の16のF-net観測点で取得された約4400の波形に、波形インバージョン法の一種であるアジョイントトモグラフィー法を適用し、走時トモグラフィーで得られた既存の3次元構造を初期モデルとしてP波とS波の速度構造を推定した。解析には5-30秒の3成分変位波形を用い、関東地域を1600万節点で表現したメッシュ構造を用いたスペクトル要素法によってフォーワード計算とアジョイント計算を実施した。理化学研究所の「京」コンピューターを用い、計6720回のシミュレーションと約62000ノード時間という大規模計算によって16回のイテレーションを行い、最終的な速度構造モデルを得た。本論文の速度構造モデルは僅か16観測点の波形データから得られたものであるが、より多くの観測点の走時データを用いた初期モデルと比較して波形の再現性が24%改善されており、この新しい手法の有用性を示している。さらに、解析に用いていない18の地震イベントに対する波形を予測し、初期モデルに比べた波形の再現性が47%改善できたことを示している。本論文で得た3次元速度不均質構造は、初期モデルと整合的な空間パターンを示しているが、初期モデルに比べて顕著に遅いS波速度異常域を検出しており、本論文の手法によって蛇紋岩の存在や火山活動をより高分解能で検出できる可能性を示している。

 近年の走時トモグラフィー法の発展により、地震学は固体地球内部の理解を深める上で極めて重要な役割を果たしている。近年のスーパーコンピューターの進歩を背景として、波形インバージョン法というさらに新しい手法を開拓した本論文は、既存の手法の持つ限界を超えて地球内部の新たな理解をもたらす可能性を秘めたものであり、今後の内部構造研究に大きな意義を持つものである。

 以上の理由から、本論文を2019年度日本地震学会論文賞とする。

若手学術奨励賞

1.受賞者:浦田 優美

受賞対象研究

物理素過程と応力場を考慮した3次元動的地震破壊過程の研究

受賞理由

 大地震に至る要因の一つとして、thermal pressurization(摩擦発熱による間隙水圧上昇による断層摩擦の弱化;以下TP)がある。TPは、理論的にも地質学的観察からもその発生が予想されていたが、断層の破壊過程に具体的にどのような影響を与えるのかは良く分かっていなかった。受賞者は、当時、技術的に困難であった3次元動的破壊伝播の数値計算を行い、TPによる破壊速度の増加やすべり分布の不均質化をもたらす効果などを定量的に明らかにした。また、水の相変化の効果を世界で初めてTPの数値計算に取り入れた研究は、受賞者の優れた独創性を示すものと言える。TPは2011年東北地方太平洋沖地震の巨大化に寄与したことが報告されており、受賞者が東北地震に先駆けてTPの力学的機構を解明した意義は大きく、その研究成果は高く評価される。

 受賞者は、上記の基礎的な理論研究に加え、岩石摩擦実験や自然地震のデータを基にしたモデリング研究により、不安定すべり時のデータから摩擦パラメータを推定する手法を確立するなど、地震発生機構の理解を進展させることにも貢献した。さらに、2016年熊本地震の力学条件に着目し、データ解析と大規模シミュレーションによって、前震―本震系列を再現するために必要となる背景応力場と断層摩擦パラメータの条件を求めることに成功したことも意義深い。

 理論研究ならびに観測データと大規模数値シミュレーションを基に新しい知見を着実に生み出し続けていることは、受賞者の高い数理的能力だけでなく、自然現象に対する鋭い洞察力、綿密な計画力とそれを完遂する実行力を示している。加えて、野外観測研究・室内実験などの幅広い分野に活動範囲を広げ、独創的な研究の素地を作っている。2017年EGU学会では招待講演を依頼されるなど国際的にも活躍しており、地震発生機構の解明・予測研究の発展に一層貢献することが期待される。

 以上のように、受賞者のすぐれた業績と高い能力を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

2.受賞者:吉田 圭佑

受賞対象研究

自然地震データに基づく応力と断層強度に関する研究

受賞理由

 応力の大きさと断層の強度を知ることは地震学の基本的な課題である。しかし、我々はそのどちらについても広域に直接測定する手段を持ち合わせていない。受賞者はこの課題に果敢に取り組み、下記に挙げた大きな成果を得た。

 受賞者は、稠密地震観測網のデータを用いて空間解像度を上げた応力逆解析を行うことにより、2008年岩手・宮城内陸地震に伴う応力の変化を検出し、本震を起こした差応力を約20MPaと推定した。このような大地震に伴う応力の変化と小さな差応力を、その後の2003年宮城県北部地震、2011年福島県浜通り地震、2016年熊本地震についての詳細な解析からも示した。一方で、東北日本の主応力方向の空間分布を求め、得られた応力分布が地形と良い相関を持つこと、地形の効果を入れた数値モデルにより応力分布を良く説明できることを明らかにし、差応力を約20MPaと推定した。推定が極めて難しい差応力の大きさを、異なる2つの方法でほぼ一致した値として推定できたことは、地震を発生させる地殻の応力場を理解する上で極めて重要な貢献である。受賞者は、フィリピン下の地殻応力状態についても調べ、主応力方向がフィリピン断層に沿って大きく回転していることを見出し、この主応力の回転が断層面に沿う固着の非一様分布で説明できることを示した。断層面の滑り欠損の情報はこれまで観測データのある期間の情報としてしか抽出できなかったが、本手法により固着開始からの積算の情報として抽出できる可能性が示され、地震発生応力場の理解に大きく貢献した。

 さらに、受賞者は、2011年東北沖地震により誘発された山形・福島県境群発地震について詳細に調べ、この活動が直下からの流体の上昇により誘発されたことを示すとともに、活動初期においてb値が異常に大きく強度と応力降下量が小さかったこと、それらが時間の経過とともにそれぞれ低下および上昇し、通常時の値に近付いていったことを明らかにした。そして、このような時間変化は、間隙流体圧が活動開始直後に非常に高く、その後流体の拡散につれて次第に低下すると考えれば統一的に理解できるとした。これは、b値や応力降下量が断層強度の指標となることを示す重要な結果であり、今後の研究に大きな影響を及ぼすと期待される。

 以上のように、受賞者のすぐれた業績を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

3.受賞者:吉光 奈奈

受賞対象研究

地震発生環境の理解に向けた室内岩石実験から自然地震までの架け橋

受賞理由

 受賞者は、岩石試料から小規模誘発地震、自然地震に至るマルチスケールの破壊発生環境の理解の深化に向け、実験室や鉱山など多様なフィールドにおける観測・計測の実施、波形記録の詳細解析、数値シミュレーションといった多面的なアプローチで、室内実験から自然地震までを架橋する独自性の高い研究に精力的に取り組んできた。

 受賞者は室内実験と小規模誘発地震の発生環境下における破壊に至る過程について、弾性波挙動の変化を通して、その理解に大きな進展をもたらした。実験室では、高圧下においても広帯域かつ超高速連続波形収録が可能なシステムを自ら開発し、その収録システムを用いて三軸圧縮破壊試験で岩石破壊強度到達後に亀裂が急激に成長し破壊面を形成する過程を弾性波速度及び減衰の変化から明らかにした。また、室内実験環境では試料サイズが有限であるため、これまでは主に直達波が利用されており、複雑な後続波は活用されないまま残されていたが、これを実験室スケールの円柱形岩石試料内の弾性波動伝播の3次元差分法シミュレーションで詳細に再現し、反射・変換波や表面波などの後続波を含む全波動場を活用した微小破壊現象モニタリングへの道を拓いた。そして、南アフリカ金鉱山での震源極近傍観測で得られた小繰り返し地震の波形を丹念に調べ、地震に先行した微小破壊により断層帯を通過する地震波が減衰することを発見した。

 さらに、受賞者は広ダイナミックレンジのスケーリング則の再検討を通じて、室内実験から自然地震までを統一的に理解するための研究開発を精力的に進めている。実験室スケールにおいては、上述の波形収録システムを活用した三軸圧縮破壊試験から、実験条件下での微小破壊が自然地震と同じスケーリング則を満たすことをはじめて明らかにした。一方、自然地震のスケーリングにおいて、推定値の誤差が大きい応力降下量の高精度推定手法を開発し、オクラホマにおける誘発地震の応力降下量の高精度推定を実現した。近年はベイズ統計学を専門とする数学者と協働し、応力降下量をはじめとした震源パラメータおよびその統計的分布のさらなる高精度推定のための研究を続けている。

 以上の理由により、受賞者のすぐれた業績を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

技術開発賞

1.授賞対象功績名:GEONETの継続的長期運用技術の開発とそれに基づく地球科学への貢献

受賞団体

国土地理院GEONETグループ

受賞理由

 受賞対象は、日本列島陸上における地殻変動観測網の開発・運用を通じて地震学の発展に多大な貢献をしてきた。主な業績は以下の通りである。

 地震に伴う諸現象のうち、地殻変動現象を正確に捉えるために、GPSを始めとするGNSS(全地球測位システム)が幅広く利活用されている。日本においては、1996年にそれまでの観測網を統合する形で、GEONETの運用が開始された。その後、観測点数が1,200点に達する世界でも類を見ない稠密観測網となっている。GEONETは測量法上の基準点と位置づけられているともに、地震に伴う地殻変動現象の理解に大きく貢献してきた。大地震に伴う地殻変動の空間分布、余効変動などを精度よく観測するともに、プレート境界における滑り欠損の推定、スロースリップイベントの発見、など、数多くの地震学的に重要な研究に寄与している。さらに、GNSSを地震計として利用するなどのより短い時間帯域への活用も重要な成果である。国土地理院では、GEONETのデータを公開することに加えて、ルーチン処理により、その時々の座標値を推定する技術開発を行っており、精度の高い結果が公開されている。これにより、GEONETデータ及びその成果が広く利活用されるようになったことは特筆に値する。現在、GEONETは重要な研究基盤となっており、そのデータを用いた研究により、受賞対象は卓抜した成果をあげている。さらに、減災・防災への貢献も大きい。

 理事会は、今回の授賞にあたり、「GEONETの継続的長期運用技術の開発とそれに基づく地球科学への貢献」が、技術開発の成果を礎とした観測網を構築し、それから得られたデータを用いて日本列島における地球科学的研究および地震発生研究において極めて重要な成果をあげていること、観測網が今後の研究基盤として欠かせないこと、本観測網が世界でも類を見ない海陸地殻変動観測網の陸上部分を担っていることから、日本地震学会技術開発賞を授賞する。

2.授賞対象功績名:定常的なGNSS-A海底地殻変動観測技術の確立と地震学への貢献

受賞者

藤田 雅之,松本 良浩,佐藤 まりこ,石川 直史,渡邉 俊一,横田 裕輔

受賞理由

 受賞対象は、日本列島の周辺海域における地殻変動観測網の開発・運用を通じて地震学の発展に多大な貢献をしてきた。主な業績は以下の通りである。

 日本周辺のプレート境界型大地震は海底下で発生することから、海底地殻変動観測は重要である。海底において、地殻変動を観測するためにGNSS-音響測距結合方式が提案され、技術開発が行われた。2000年代初頭には、GNSS技術と音響測距技術を組み合わせ、観測船を接続点として両者を高精度に結合する手法の基礎技術開発が行われた。この技術が我が国で独自に確立されたことの意義は大きい。その後、開発されたシステムは海上保安庁の測量船に艤装され、安定的な観測が実施できるようになり、観測精度に関する検証も行われた。観測機器・手法の開発と併行して、解析技術の開発も行われ、プレート境界型大地震に伴う海底地殻変動を観測することが可能となった。2010年代には、観測技術及び解析技術のさらなる高度化により、年4回から10回程度の観測頻度とcmオーダーの観測技術が達成されている。これらの観測により、日本海溝や南海トラフ沈み込み帯における浅部プレート境界のプレート間固着状態の把握が可能となり、巨大地震震源域の理解に大きく貢献した。最近では、浅部プレート境界のスロースリップイベントの検出などの新知見も提供している。受賞対象による観測技術の開発と定常的な観測体制の確立は、多くの重要な観測成果をもたらすとともに、海底地殻変動研究を大きく牽引しており、重要な研究基盤となっている。また、データ論文やデータDOIによるオープンデータシステムを導入しており、その先進的な取り組みも評価される。

 理事会は、今回の授賞にあたり、「定常的なGNSS-A海底地殻変動観測技術の確立と地震学への貢献」が、技術開発の成果を礎とした観測網を構築し、それから得られたデータを用いて日本列島における地球科学的研究および地震発生研究において極めて重要な成果をあげていること、観測網が今後の研究基盤として欠かせないこと、本観測網が世界でも類を見ない海陸地殻変動観測網の海域部として重要な役割を果たしていることから、日本地震学会技術開発賞を授賞する。

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