2016年度Awards

受賞者:武村 俊介

受賞対象研究

地震波形解析と波動伝播計算に基づく地球内部の短波長構造の研究

受賞理由

 受賞者は,地球内部の短波長不均質構造と地震波伝播特性の理解の深化のため,データ解析とともに,高性能計算機を用いた波動伝播計算に基づくモデル検証を推し進め,基礎・応用研究に取り組んできた.そのおもな業績は以下の通りである.

 震源S波放射パターンの崩れの原因を,地殻・マントルの短波長不均質構造による散乱と地表地形による散乱とに分類することに成功し,さらに,解析対象をP波に拡げ,震源放射パターンの崩れを包括的に再現できることを示した.この成果を踏まえて膨大な地震波形記録を解析し,短波長不均質構造の分布特性が東北日本と西南日本では異なることを示した.

 また,フィリピン海スラブのトラップ波の解析に基づき,海洋性地殻の短波長不均質性が短周期地震波の伝播特性を決定づけることを明らかにし,その形成には脱水が関与している可能性を指摘した.さらにスラブ上部マントルの低速度異常にも強い不均質性が内包され,強震動の生成に影響を与えていること示した.

 これら一連の研究は,比較的単純なスラブのイメージから,短波長不均質構造を有する複雑なイメージへと転換させ,震源メカニズム推定にも影響することを示した.

 さらに,これまでの短波長不均質構造による地震波伝播・散乱に関する研究では,統計的な近似によるモデル化が主流であったが,受賞者は,高性能計算機を用いた数値計算により,散乱現象を再現することに成功した.また,膨大な波形記録を解析し,地殻構造,震源過程,地震テクトニクスの解釈,さらには,工学分野への応用可能性を示してきた.これらの成果は,堆積盆地における長周期地震動の増幅メカニズムの新たな解釈にも適用されている. 以上の理由から受賞者の優れた業績を認め,その将来性を期待し,日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する.


受賞者:直井 誠

受賞対象研究

南アフリカ大深度金鉱山における震源の物理の観測研究

受賞理由

 受賞者は,南アフリカ金鉱山深部での震源至近距離観測から,地震発生物理の進展に貢献する,以下のような卓抜した成果をあげてきた.

 内陸活断層では微小地震の定常的活動が認められないものが多く,それが認められる場合でも断層面外の岩盤損傷域での活動と解釈されることが多い.鉱山でも従来観測(検知限界M ≿ -1)では,断層と微小地震活動に明瞭な関係は見られないが,受賞者は地質断層面上に極度に集中した定常活動を発見した.さらにこの活動はb値が高く,極微小地震しか発生していないため,M≦-3まで観測しなければこのような活動に気付くことができないことを示し,自然地震でも同様の活動が見過ごされている可能性を指摘した.なお,鉱山の微小地震の大半を占める切羽前方の無垢な岩盤中でのイベントがむしろ自然地震に近いb値を持ち,また,それらが初生断層を形成する巨視的剪断破壊の板状準備ゾーンを形成するという成果と併せて,断層構造と地震活動を同時に理解する必要性を強く提示している.

 また,受賞者は,上記の定常活動の中にM~-4級の繰り返し地震を多数発見し,断層の単位クリープ量当たりの発生頻度が,プレート境界の繰り返し地震のスケーリング則から予想されるよりも何桁も高いことを見出し,極微小地震の観測によって内陸断層の微小なクリープも短時間で検知できる可能性を指摘した.

 このようなゆっくりとした滑りは,地震の前にも生じうることが理論的に示唆されている(いわゆる震源核)ものの,その規模については議論がある.受賞者は,断層面における準静的滑り域が20m程度まで拡大したことを示唆する活動を発見し,天然の断層上の震源核は室内実験よりずっと大きなスケールまで安定でいられることを示した.さらに,受賞者は,断層面上に発生する微小地震の活動域から断層が大規模破壊した事例においても,データ解析で重要な役割を果たした.

 これらは,至近距離観測により,地震の描像が従来よりも詳細になったというより,全く見えていなかった現象を発見したものであり,地震発生の物理に関する重要な発見となったばかりではなく,自然地震の観測研究に断層面上での極微小地震活動の追及という新たな方向を提示するものである.


受賞者:森重 学

受賞対象研究

沈み込み帯ダイナミクスの数値シミュレーション研究

受賞理由

 受賞者は,数値シミュレーションを用いて,沈み込み帯での地球内部ダイナミクス研究を行ってきた.ここ数年,3次元的なマントルの流れと変形場,温度場の発展の3次元数値計算を行い,沈み込み帯での多様な観測結果と比較することで,従来のモデルの限界を指摘し,観測結果とより整合する新たなモデルを提案するに至っており,沈み込み帯のダイナミクスにおいて卓抜した成果を挙げている.具体的な業績は以下の通りである.

 東北日本弧から千島弧の接合部付近で観測される,地震波速度異方性やスラブ沈み込み角度の島弧に沿った方向の変化が,沈み込みはじめの海溝の形状という単純な要因で統一的に説明できることを,島弧接合部でのマントルの流れと変形場の3次元数値計算で初めて示した.さらに,スラブの3次元形状やスラブ・マントル間のカップリング状態が温度構造に与える影響の推定を行った結果,従来のモデルでは低地殻熱流量やスラブ内地震分布等の観測結果の説明が難しいことを明らかにした.

 従来のモデルの限界を解消するには,スラブ直上に薄い低粘性層を仮定すればよいことを3次元数値計算で示すとともに,低粘性層内での流れによって,マントルウェッジ内に島弧に沿う方向の温度変化が生じることを見出し,東北日本弧等に見られる間欠的な火山分布の説明になり得ることを示した.また,低粘性層が異方的な透水性を持つ蛇紋岩であると仮定し,スラブから脱水した流体の3次元的な流れを計算することで,スラブの3次元的な形状が流体の移動に与える影響を評価した.その結果,スラブが膨らんでいる場所に流体が集まることを示すとともに,形状に支配される流体分布によってカスカディアや西南日本での短期的スロースリップの平均すべり速度の分布が説明できることを示した.

 さらに,マントルウェッジ内の対流によって生じうる地震波速度異方性を,鉱物の格子選択配向理論にもとづいて評価し,従来注目されてきたP波方位異方性よりも,水平面内と鉛直方向の異方性に注目すべきであると予測したが,この現象は後に東北地方で実際に検出されている.

 このように,複雑な沈み込み帯のダイナミクスを理解するために,何が本質的な要素であるかを見抜いて単純な数理モデルを構成し,数値計算結果と多様な観測結果と比較検証してモデルを発展させるとともに,数値計算からの予測で地震学的解析に示唆を与える研究も行うことで観測科学への貢献も果たしている.

 以上の理由から受賞者の優れた業績を認め,その将来性を期待し,日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する.


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