Anthony F. Shakal (カリフォルニア州保全局、鉱山・地質部)
南カリフォルニアで大きな災害を起こした1971年サンフェルナンド地震は、カリフォルニア州にとって非常に重要な出来事でした。この地震により例えば、強震動はそれまで考えられていたよりもずっと強くなりうること、建物の強震時の揺れ方があまり良く理解されていなかったこと、などが明らかになりました。その結果、カリフォルニア州のCDMG(California Division of Mines and Geology)にCSMIP(カリフォルニア強震観測プログラム; California Strong Motion Instrumentation Program)が設立されました。CSMIPの目的は地盤および建物の強震動を観測することで、建物の耐震設計基準を改善していくための基礎となる定量的なデータを提供することにあります。
他の諸機関との協力
TriNet: 1994年ノースリッジ地震の後、Caltech(カリフォルニア工科大学)における強震観測事業(CUBE)の実績により、TriNetと呼ばれるCaltech、CSMIP、 USGSによる共同プロジェクトが発足しました(Mori, 1999)。このプロジェクトの主な目的は、地震直後にShakeMapと呼ばれる揺れの強さを表示する地図を作成することです。ShakeMapは、比較的小さな地震でも作成され、現在、Webページで見ることができます(www.trinet.org)。
CISN: TriNetにより大きな進歩があったものの、TriNetは南カルフォルニアのノースリッジ地震で影響を受けた地域に限定されています。対象地域を拡張するため、TriNetはUC Berkeley (カリフォルニア州立大バークレー校)と USGS Menlo Park(米国地質調査所メンロパーク支部)を協力機関に加え、全州を対象とした共同機関を結成しました。この共同機関は、CISN(California Integrated Seismic Network)として知られ、TriNetに組み込まれ、いずれ置き換わる予定ですが、最近になって関連機関による最終的な決定に至りました。CISNの基金は州及び連邦政府から提供される予定です。
CISNの重要な要素に、CSMIPとUSGSの強震観測プログラムとの協力によるEngineering Data Centerの設立があります。CISNの観測網による工学的に重要な記録は、技術者向けに処理され、Engineering Data Centerを通して配布される予定です。同時に同じ記録はCISNを構成する様々な地震データセンターを経由して、地震学者用のフォーマットでも提供される予定です(dual use strategy)。Engineering Data Centerの初期の取り組みは、Shakal and Scrivner (2000)により詳述されていますが、この試みはTriNetプロジェクトが終了する2001年度末前には完了する予定です。
構造物と地表・地中観測
CSMIPはこれまで250以上の構造物(170の建物、60の橋、20のダムなど)に強震計を設置して来ました。どの構造物の強震観測も、設置前に検討してきた設置目的に基づき包括的な計画のもとに遂行されています。過去8年間の全ての機器にはデジタル式強震計を使用していますが、それ以前の構造物にはフィルム書きによるアナログ式強震計が設置されていました。アナログ強震計からデジタル強震計への置き換えは、今後十数年かけて行っていく予定です。新しい全ての強震計は2gの加速度センサーを用いています。但し、ノースリッジ地震の際、観測された構造物の応答が2gを超えたため、4gまで記録能力のあるセンサーが通常は多くの建物で使用されています。
一方、表層地盤の増幅特性を調べるために、CSMIPは1989年にボアホールによる強震観測プロジェクトを開始しました。その際、精度を確保すると同時に、修理の後も繰り返し設置可能になる新しい機器の固定法が開発されました。交通局の協力のもと、現在、11のボアホールアレー観測が行われており、今後さらに8つの新しいアレー観測を実施する予定です。これまで観測されたデータはまだ小さな振幅のものばかりですが、遠方の大きな地震の記録は、近地の小さな地震の記録とは大きく異なることを明らかになっています。遠方の地震の場合、恐らくは表面波伝播の効果により、期待されるような表層地盤による地震動の増幅効果は観測されていません。逆に表面波が発達しない近地地震の記録では、表層地盤により2倍あるいはそれ以上の増幅効果が確認されています。この新しいアレー観測プロジェクトにより、さらに多くの知見が今後得られるでしょう。
最後にCSMIPにより記録され、処理された強震データは以下のサイトからダウンロード可能です。
ftp://ftp.consrv.ca.gov/pub/dmg/csmip/
要約および近年の展開から学んだ教訓
・ 最近の強震ネットワークの構築には他機関との共同が重要となってきています。様々な技術の発達によりこれまで障害と思われたものが取り除かれる一方で、社会からは様々な機関の強震ネットワークが統合化されることを期待しています。これはネットワークの担当者に新しい手法と技術を要求することにもなってきています。
・ インターネットにより、社会はデータが速やかに利用できることを期待しています。ニュースや気象情報などが24時間、ほぼリアルタイムに提供されているのと同様に、個人から政府レベルまで様々なユーザーから地震情報の速やかな提供を期待している訳です。
・ 従って強震観測データを速やかに使用可能にすることは、その存在価値をさらに高め、その結果、より多くの社会的なサポートが期待できるようになります。
・ ネットワークに費やした努力や、それが投資に見合う価値があることを認識してもらうためには、得られた強震観測データを社会に役立たせるための努力が重要です。
(日本語訳:工学院大学 久田嘉章)
*1(補遺:著者からの情報提供より)