強震観測委員会 青井真(防災科学技術研究所)
●はじめに
K-NET(Kyoshin Net)は、95年兵庫県南部地震後に科学技術庁防災科学技術研究所により全国1000地点(現在1001地点)に設置された強震計ネットワークであり、日本全国に約25km間隔で同一のスペックを持つ加速度型強震計を設置することにより、非常に均質な観測を行うことができるのが特長である。記録は収録後直ちに公開されるとともに、自治体等の要請に応じて観測点から直接データを提供することができるよう、設計されている。多くの観測点は役場などの公共施設等の敷地内に設置されおり、硬質岩盤上に設置される場合に比べ、より人間の生活圏に近い条件で観測が行われていると言える。
●観測およびネットワークのシステム
各観測点にはK-NET95(アカシ社製)とよばれる、A/D変換器分解能・ダイナミックレンジはそれぞれ18bit、108dB以上の広ダイナミックレンジの加速度型強震計が設置されており、最大2000galまで観測可能である。
記録はイベントトリガー方式で行われ、トリガーのスタートレベルは2-4galを基本とし、各観測点のノイズレベル、地震活動度等により設定され、必要に応じて変更されている。記録はトリガーのスタートレベルと同一のレベルを収束判定条件として終了させるが、最短120秒は記録される(90秒の観測点もある)。観測記録は100Hzでサンプリング(A/D)され、波形は8MBの内蔵メモリー上に記録されるため、合計約2時間半分の波形を記録することができる。
データ回収は、つくばの防災科学技術研究所内にある強震観測センターで一括して行われている。震度3以上の地震が起きた場合には、気象衛星ひまわりによる気象庁緊急情報衛星同報システムからの震度・震源情報をもとに記録を回収すべき観測点を算定し、観測センターから順次ダイアルアップを開始する。回収は25本の電話回線を用いて行われ、回収後担当者が波形をチェックし直ちに公開される。
また、つくばの強震観測センターでデータ回収・公開の作業が不可能な場合には、東北大学内のミラーサイト(後述)がバックアップセンターとして同等の役割を果たす。
●データ公開
気象庁震度で3以上を記録した地震に関して、トリガーされた全ての観測点のデータは一切の制限を加えることなく公開されている。地震後2週間以内(実際には数時間―数日)にホームページ(http://www.k-net.bosai.go.jp/)に最大加速度コンターマップおよびデジタル波形データが公開されるとともに、波形データはftp( ftp.k-net.bosai.go.jpの /pub/soildataおよび/pub/strongmotiondata )でも公開される。また、年二回の割合でCD-ROMにより波形データの提供を行っている。また、全観測点で最高20mのボーリングによる検層が行われており、浅層の構造が同様にホームページおよびCD-ROMにて提供されている。大量のデータが必要な場合およびネットワークが使用できない場合には、観測センターにてセルフサービスでDATあるいはMOに転写を行うこともできる。
また、ミラーサイトとして
http://www.k-net.ostec.or.jp/および
http://www.k-net.geophys.tohoku.ac.jp/
が用意されているので適宜近隣のサイトを利用することも可能である。
なお、波形自体をウェブページあるいはftpで提供するサービスは行われていないが、入手した波形データをWindows95/NT上で表示・解析・印刷するためのK-NETビューワというツールが、ウェブ上で公開されている(ftp://www.k-net.bosai.go.jp/pub/utility/、ファイル名はsmda-??.*)。3成分の同時表示、ヘッダー情報の表示、震度の計算、各種スペクトルの計算等基本的な作業が簡単にできることが特長である。
K-NETを利用する上での重要なお知らせ等がウェブのニュースページ(トップページにリンクが張られている)に掲載・逐次更新されている。
●自治体への情報提供
K-NETでは、10gal以上を記録した観測点の当該自治体に対して最大加速度や気象庁計測震度等の強震情報をFAXを用いて転送している。
また、K-NETの記録装置は電話回線とのインターフェイスを2つ備えており、自治体等の要請に応じて各観測点からの記録の分岐ができるように設計されている。このことにより、各自治体は防災科学技術研究所のデータ公開とは独自にデータを収集し、震度情報等の情報を防災に役立てることができる。実際に、K-NETの全観測点の半分以上の522地点のデータが都道府県による震度情報ネットワークシステムに組み入れられおり、震度情報の一部として活用されている。
●終わりに
以上簡単にK-NETによる強震観測を紹介してきたが、同一スペックを持つ観測機器を大規模に全国展開し、かつ直ちにデータを公開するという点において先駆的な観測である。今後さらに基盤観測等が展開されることにより、このような形態の観測・公開が増え、より多くのデータが取得・蓄積されていくと考えられる。広範なユーザーによる有効活用が期待されている。
なお、K-NETに関するお問い合わせおよびCD-ROMの請求は
〒305 茨城県つくば市天王台3の1
防災科学技術研究所 地震・火山防災研究室
FAX 0298−54−4941
にて受け付けている。
謝辞 防災科学技術研究所防災総合研究部地震火山研究室の木下繁夫には情報を提供していただき、原稿を読んでいただきました。記して感謝いたします。
参考文献:木下繁夫、1997,K-net ----A year after --- 、JSEEP