強震動委員会活動報告

「川崎市震災対策支援システム見学会」

                      工学院大学建築学科 久田嘉章
                      (hisada@cc.kogakuin.ac.jp)
日時:平成9(1997)年5月6日13時30分〜16時30分
場所:川崎市役所 第3庁舎7階 防災センター
説明:川崎市土木局防災対策室 (鈴木室長、岩沢氏、小林先生)
企画:日本地震学会・強震動委員会 (工学院大学 久田)
参加者:(敬称略)
    久田(工学院大)、天池(竹中工務店)、岩崎(大阪土質)、末冨(佐藤工業)
    神田・佐々木・須田(鹿島建設)、中村(東電設計)、
    植竹・山下・中村・小林・西村(東京電力)、石井(東電工業)
    古瀬(三菱スペースソフト)・新井(三菱総研)、
    伊藤(NEWJEC)、畑山(自治省消防庁)

  
   図:システムの説明をする小林、鈴木、岩澤の各氏(左から)


 
 阪神大震災の際、大きな問題として注目されたのは、強震観測体制の不十分さや震
災時における情報収集の困難さ、初動体制の遅れを始めとする国・自治体の大震災時
の危機管理体制の弱さ、などでした。このため震災の後、国や自治体の様々な機関で
、強震・震度計の設置や震災対策支援システム等の開発・整備が急激な勢いで進めら
れてきました。強震動委員会としても、その実体を把握し、強震動研究に携わる地震
学会員に情報提供をすることが重要と考え、できるかぎりの情報収集に努めており、
今後、順次報告を行っていきたいと考えております。
 今回は、早期地震被害想定システムを我が国で最も早く実用化した自治体として、
川崎市のシステムの見学会を5月6日に行いました。参加者の呼びかけは、各種のメ
ーリングリストを用いて行い、上記の18名の参加者を得ました。当日、川崎市側は
土木局防災対策室室長の鈴木彰氏、岩澤秀國氏、同市防災会議専門部会委員で東京工
業大学名誉教授の小林啓美氏を中心に説明をして頂きました。特に現システムの開発
に中心的な役割を果たしている小林先生の率直な見解を伺えたのは幸いでした。
 このシステム開発までの経緯を説明しますと、昭和41(1966)年に当時の市長の宮
部氏の提案により川崎市防災会議地震専門部会を設置、昭和63(1988)年「川崎市地
震被害想定調査報告書を作成、平成5(1993)年に地震及び風水害対策として防災セン
ター設置、平成6(1994)年システムの稼動開始、とのことです。兵庫県南部地震の後
、南関東地震や立川断層などの直下地震も考慮した、新たな報告書が本年度中に発行
される模様です。
 このシステムの目的は、大地震発生から市職員の数が揃い情報収集と分析が軌道に
乗るまでの時間、いわゆる「情報の空白域」において、自動化された情報収集と被害
想定システムを用いて被害の概況を掴み、スムースな初動体制を確立することにあり
ます。具体的には、地震後、まず同市の7つの区役所に設置した強震計から加速度の
最大振幅データなどを防災無線でセンターに電送し、その値と想定地震と地盤データ
から予め予想されている加速度分布パターンを用いて、市内の500mメッシュの最大加
速度分布、震度分布、被害分布、などの概況を3分以内で計算し、災害対策本部の設
置や応急対策など各種勧告を自動的に発信する、というものです。防災センターが被
災した場合のバックアップセンターとして、多摩区役所に類似のセンターを平成9(
1997)年度に開設したとのことです。因みにシステム設立に3億円ほどかかり、維持
では防災無線の年1億円を別として、端末とセンターにそれぞれ年550万と650
万円ほどかかるとのことでした。なお波形のデジタルデータは後ほど吸い上げ可能と
のことです。
 小林先生によると、昨年のシステム起動以降、これまで数回システムが稼動してお
り、システムの精度などのチェックはこれからとのことです。また平日には20数名
の職員がセンターにいるが、夜間と休日は二人の当直しかおらず、地震後に膨大な情
報が集まって来た場合、その対応を含めて現システムに組み込むことも今後の課題だ
ろう、とのことでした。私個人も、地盤のボーリングデータや建物データなど自治体
の地域に密着した情報がフルに生かされている点などに感心しました。但し、被害想
定の精度は恐らくまだかなり荒いため、今後、小林先生のおっしゃるように実際の地
震データでのチェックや最新の研究成果の取り込みなどによっていかに精度の向上を
はかるか、さらに地震後に続々と入ってくる生のデータをいかにシステムに取り込ん
で、現実に近い被害状況を逐次構築するか、国や近隣の自治体とどのようにスムース
な情報や資源の交換を行うか、などが今後の課題として考えられるかな、と思いました。
 見学会は詳しい説明を頂いた後、各種装置の見学、質疑応答を経て、散会となりま
した。いずれにしましても、お忙しい中、3時間もの長時間に渡って懇切丁寧に説明
や質疑応答して頂いた関係者にはこの場を借りて御礼申し上げます。今後も様々な機
関の見学会を企画する予定ですので、アイデアや参加希望がありましたら久田までお
知らせください。

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