2017年度Awards

1.受賞対象論文

Determination of temporal changes in seismic velocity caused by volcanic activity in and around Hakone volcano, central Japan, using ambient seismic noise record

著者:行竹 洋平(Yohei Yukutake),上野 友岳(Tomotake Ueno),宮岡 一樹(Kazuki Miyaoka)
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science (2016) 3:29, DOI: 10.1186/s40645-016-0106-5

受賞理由

 地震波干渉法は、雑微動の相関処理から観測点間のグリーン関数を推定する手法であり、近年この手法を用いて地殻構造の時間変化を検出した事例が多く報告されている。しかし、地殻構造を変化させる要因は、地殻変動、流体移動、強震動による表層地盤の損傷など様々であり、地震波干渉法で見える構造変化がどの要因によるものなのか議論が続いている。本論文での特筆すべき成果は、日本有数の火山地熱地帯である箱根火山において、地震波形連続記録に対して地震波干渉法を適用し、2度の有意な地震波速度変化を検出したこと、そして丁寧な検証によりその要因を特定したこと、である。

 検出された2度の変化は、1) 2011年東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)直後の箱根カルデラ内及びその近傍の観測点における最大1%の急激な地震波速度低下、2) 2013年群発地震活動の際の中央火口丘及び噴気地帯のある大涌谷地熱域の観測点における約0.6%の地震波速度低下、である。東北沖地震後の速度低下は、10日以内の短期間に起きたこと、比較的広範囲の観測点で検知されたこと、さらに同時期に活発な地震活動が誘発されたことから、火山深部のマグマ性流体が東北沖地震による動的な歪変化に応答して地震波速度低下をもたらしたものと解釈した。一方、2013年群発地震活動の際の地震波速度低下は、数か月に及ぶより長い時定数をもつ変化であり地殻変動と調和的であること、かつ地殻変動データから推定された地殻変動源による体積歪の膨張域と地震波速度低下域が対応することから、火山活動に伴う地殻変動源によって生じた歪変化が地震波速度低下の主要因であると結論付けた。

 上記の結論は、GNSSや傾斜計による地殻変動記録、強震記録、地震活動及び降水量など複数の観測データと照らし合わせた丁寧な検証のもと導かれており、非常に説得力がある。本論文により、今回箱根火山で検出された地震波速度の時間変化の要因が特定され、地震波干渉法が構造のモニタリングに有用であることが説得的に示されたことは、地震学上極めて重要な成果である。

 以上の理由により、 本論文を2017年度日本地震学会論文賞とする。

2.受賞対象論文

千葉県北部の地震活動と同期した非地震性すべり

著者:小林 昭夫, 弘瀬 冬樹
掲載誌:地震第2輯v69, p.1-9,2016 DOI: https://doi.org/10.4294/zisin.69.1

受賞理由

 本論文では、国土地理院GEONET観測点の座標時系列の解析より千葉県北部において2000年および2005年に1カ月から1年程度の継続時間を持つ非定常的な隆起が発生していたことを見出した。それらの隆起は、関東地方の太平洋プレート上面の相似地震活動域(木村、2010)において発生した2000年6月3日の銚子付近の地震(M 6.1)、2005年4月11日の銚子付近の地震(M 6.1)、同7月23日の千葉市付近の地震(M 6.0)とほぼ同一の断層面で発生した余効すべりによると考えられるが、すべりの規模は地震の数倍であった。

 これまで東北日本の太平洋プレート上面では、1992年三陸はるか沖地震、1994年三陸はるか沖地震, 2003年十勝沖地震などで地震と同等ないしはその規模を上回る非地震性の余効すべりが発生することが報告されてきた。一方、関東の太平洋プレート上面では、これまでそのような大きな余効すべりは報告されておらず、余効すべりが日本付近の太平洋プレート上面に一般的に見られる現象かどうか明らかではなかった。本論文により、関東地方の太平洋プレート上面においても同様の現象が見られることが明らかになり、そのような余効すべりが日本付近の太平洋プレート上面に普遍的に見られる現象であることが示唆された。

著者らはGEONET観測点の座標時系列を丹念に調べ、比較的誤差の大きな上下変動の時系列から、ともすれば見過ごされがちな小規模の非定常すべりを発見した。また、詳細な検討からそれらが太平洋プレート上面で発生したM6級の地震に伴う余効すべりと考えられることを明らかにした。本論文は、従来知られていなかった関東地方の太平洋プレート上面における地震を上回る規模の余効すべりの発生という新しい現象を指摘したという点で新規性が高く、何が余効すべりの発生をコントロールしているのかを今後解明していく上で重要な制約を与える点でその価値は高い。

 以上の理由から、本論文を2017年度日本地震学会論文賞とする。

3.受賞対象論文

1906年Ecuador·Colombia巨大地震の地震および津波規模の再評価

著者:都筑 基博, 小山 順二, Aditya R. GUSMAN, 蓬田 清
掲載誌:地震第2輯v.69, p.87-98,2017 DOI: https://doi.org/10.4294/zisin.69.87

受賞理由

 2011年東北地方太平洋沖地震の発生により、500年~1000年周期で発生するとされるM9クラスの海溝型超巨大地震の解明には、近代的な観測データが存在しない歴史地震や古地震の精査が必要であることが改めて認識された。歴史地震や古地震の実像の解明には、史料や地質データに加え近代的な観測データで解析された最近の地震との比較が必要である。さらに、発生間隔が長い超巨大地震を観測によって繰り返しを捉えることは難しいため、複数の沈み込み帯における超巨大地震の包括的研究も不可欠である。

 本論文では、20世紀初頭の超巨大地震の一つである1906年のEcuador・Columbia地震(Mw8.8)の規模を再評価した。再評価においては、新たに発見した地方新聞の記事に基づいたハワイ諸島の津波波高の精査や、1906年の地震の地震波形・津波記録と観測網が整備された1979年に同地域で発生した地震の記録との比較を行った。その結果、1906年の地震はEcuador・Colombia沖の沈み込み帯全体を震源域とするような超巨大地震であったという既往研究は過大評価であり、地震の規模は従来の報告値よりも有意に小さいMw8.4-8.5程度が適切と結論づけた。論文では、既往研究で地震規模を過大評価した原因として、1)1906年の津波波高が記録されたハワイの観測点(Hilo)では、津波襲来の当日、嵐と重なり波高の観測値が異常に高くなったこと、2)震源域周辺の陸域の地殻変動のすべてを地震時すべりによるものと仮定し、余効変動や非地震性すべりによる変動を考慮しなかったことを挙げている。さらに津波シミュレーションも行い、Mw8.5の断層モデルを仮定すると、津波観測記録を最もよく説明できることも示されている。論文では、1906年の地震の震源域の広がりや2016年に発生したMw7.8の地震に関するテクトニクス的な議論も展開され、沈み込み帯の地震テクトニクスおよび海溝型地震発生のメカニズムの理解の進展という面においても重要な知見を提示されている。

 以上のように、本論文では観測データが十分ではない20世紀初頭の巨大地震に対して多面的な検討を詳細に行い、その実像を解明した優れた論文である。また、限られた観測から歴史的な地震の評価を適切に行えたことは、まだその実像が明らかになっていない過去の巨大地震の発生メカニズムの解明に向けて大いに勇気づけられる結果である。

 以上の理由から、本論文を2017年度日本地震学会論文賞とする。

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